内容説明
イスラエルに生まれ、イスラエルと運命をともにする、国民的詩人イェフダ・アミハイ。アミハイは、この国のアンビヴァレントな性格を体現しながら、その引き裂かれのなかで表現しつづける。皮肉と優しさ、喜びと絶望、ユーモアと愛。本書は、エルサレムとアミハイの分かち難い結びつきと、そこから表現される苦しみと喜びを知りうる貴重な詞華集である。日本初、翻訳詩集。
目次
エルサレムは使い古しのユダヤ人でいっぱい
観光客
市長
エルサレム
エルサレムのエコロジー
旧市街にて
エルサレムの自殺未遂
ダマスカス門
エルサレム1967年
イェミン・モシェの風車〔ほか〕
著者等紹介
アミハイ,イェフダ[アミハイ,イェフダ][Amichai,Yehuda]
現代イスラエルの代表的詩人。1924年、ドイツ・バイエルン地方のヴルツブルグで正統派ユダヤ教徒の家庭に生まれ、幼少のころから伝統的なユダヤ教の宗教教育を受ける。家族に連れられて、1936年、12歳でパレスチナに移住。第二次世界大戦中は英国軍のユダヤ旅団で戦い、1948年の独立戦争ではパルマッハの一員として戦った世代に属する。高尚な詩的言語を駆使するそれまでのヘブライ詩の伝統に組みせず、大胆に口語体を使った詩を多く書き、国民的詩人として愛された。短期間の海外滞在をのぞき、生涯エルサレムで暮らし、2000年秋に他界
村田靖子[ムラタヤスコ]
東京女子大学哲学科卒業。東京都立大学大学院英文学専攻博士課程中退。現在、東邦大学教授。英文学、ヘブライ文学
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感想・レビュー
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はやしま
28
アモス・オズの著作のタイトルの元となった詩が所収された詩集。強い政治主張にあふれているのではなく、抑制を聞かせながらエルサレムについて語っているという印象。その視点はエルサレムを縦(歴史の流れ)に横(自らが立っている時点)に捉えている。アミハイはサブラではなく移民だが、土の匂いを感じさせる、大地に根を下ろしていることを感じさせるような作品が並ぶ。また時にはエルサレムの歴史背景を踏まえた複雑な思いも垣間見える。英領パレスチナから国家となった時代を知る人物の声に耳を傾けた。2019/01/31
きゅー
7
「ぼくたちが出会ったのは、六日戦争の一日前だった」などと、世界には戦争を尺度に年月を語る場所があるということ。そしていまその尺度が更新されつつある日々のさなか。アモス・オズはイスラエルには無数の預言者がいると言っていた。それに対してイェフダ・アミハイは預言者のようには語らない。預言とはイデオロギーのことであり、彼はそれに与しない。そして預言者の最も恐ろしいところは、自身が正しいと確信していることだ。イェフダの声は、生身の人の声。2023/11/24
きゅー
5
イスラエルの詩人。彼の書く詩にはある種のユーモアの感覚、それに自分の立ち位置を一旦忘れ、迫害されるもの、弱いものへ投げかける優しいまなざしを感じた。たとえば「エルサレム 1967年」の中では、世間が六日間戦争での劇的な勝利に浮かれているのとは異なり、静かに死者を悼む、冷静で穏やかな人間性が浮かび上がっている。私たちのいずれもが暗さと明るさ、正義と不義を抱えている。人間というものを何々であると断言することなく、その全体を混沌とした集合物としてみることの出来る能力を、アミハイは持っている。2013/09/26