内容説明
第一次世界大戦前後のジュネーブやマドリードで前衛主義の洗礼を受けた後、「宿命」のブエノスアイレスに帰還したボルヘスは、斬新な「ウルトライスモ」の旗幟を掲げて詩壇に打った出た。しかし、それぞれ『審問』と『伝奇集』で代表されるエッセー、短篇のような他ジャンルに関るあいだに、詩風を一変させる。中年に至ってホメーロスやミルトンと同じく失明の悲運に遭遇したこともあって、記憶と推敲に便利なソネットのような定型を用い、月、川、砂、薔薇、虎、鏡といった伝統的な隠喩を借り、古今東西の神話、伝説、文学。思想からの引用を頼りながら、宇宙と存在の永遠の在りようを探る形而上学的な詩人へと変貌したのだ。本書では、『創造者』以降の晩年の詩集からできる限り多くの作品を採ることによって、反時代的であるが故にかえって時代に新鮮な衝撃を与えた、めくるめく「時間の迷宮」の主の姿を鮮明に浮かび上がらせようとした。
目次
見知らぬ街
サン・マルティン広場
ロサス
散策
夜明け
サン・フアン街の夜
バラ色の店のある街
町外れの地平線を眺めながら
別れ
キローガ将軍、馬車で死に向かう
平安を誇る〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
スプーン
37
世界の始まりと終わりを手中におさめたかの様なボルヘスの詩は、豊饒な味わいと共に、読む者を世界の核心へといざなって来る。「知性とは何であるか?」のひとつの答えが、ここにはある。2019/05/19
拓也 ◆mOrYeBoQbw
14
詩集。ボルヘスの処女詩集から晩年までの作品を集めた傑作選詩集ですが、注意しておきたいのは最初の三作品<ブエノスアイレスの熱狂><正面の月><サン・マルティン印の雑記帳>が二十代の作品で、その次の自選詩集<創造者>から六十代の作品になり、一気に年代が飛び晩年の作品が続きます。後半に様々なボルヘス研究論や文学論、年表、解説も収録。一つのテーマを様々な切り口で楽しむ、ボルヘス特有の幻想世界が楽しめる一冊ですねー(・ω・)ノシ2016/04/06
呼戯人
10
世界文学に詳しいボルヘス。哲学や宗教にも詳しい。どうかすると哲学者よりも哲学的なエッセイや短編や詩を書く。スピノザについての詩とヘラクレイトスについての詩が好きだ。スピノザのエチカは、詩のような哲学だ。しかし、ボルヘスのスピノザは哲学のような詩だ。概念が隠喩に変身する時、心はときめいて胸が高まる。イメージとコンセプト。この二つのものを架橋するボルヘスの神業2015/10/23
うた
8
伝奇集や幻獣辞典で知られるボルヘスだが、なにより詩人であったことがわかる一冊。創造者以前のボルヘス、特に最初の詩集であるブエノスアイレスの熱狂は、彼らしくないといえばらしくないのだけれど、かの都市への素直な愛情が読み取れて好ましい。スペイン語への素敵な招待としても良いものではないだろうか。2025/04/08
パスフィ
7
やっと詩の楽しみ方がわかったのか、ボルヘスの詩が気に入ったのか、その両方なのか。自分の気持ちを説明できないけど、読んでいる最中は幸福感に近いものを感じていた。2014/12/15
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- 和書
- 光る背中