内容説明
異常な環境の中、人種間の差異を飛びこえてなされる人間の深部における“和解”というテーマを著者の個人的体験に基礎をおき、見事に展開する感動的ドラマ。
著者等紹介
由良君美[ユラキミヨシ]
1929年東京都に生まれる。学習院大学哲学科・英文学科各卒業。慶応義塾大学大学院修士課程修了。英文学専攻、慶応義塾大学助教授、東京大学教授
富山太佳夫[トミヤマタカオ]
1947年鳥取県西伯郡に生まれる。1973年東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。専攻、19世紀イングランド小説。青山学院大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
井月 奎(いづき けい)
36
戦争は外交の一手段で、喧嘩は会話で暴力は言語だという論がある。出来の悪い冗談です。戦争、暴力は短絡者の思慮浅き行いで、そこに計算高くて卑怯ななにかが宿ります。自らの美点が弟には授けられずに優越感と同情心に苛まれるセリエを、ヨノイは忠誠と暴力に板挟みにされて自我を破壊されつつ戦争に都合よく利用されます。人は、いえ、責任ある人は、自我と人格を無視されたとしても自らを保ちつつ種をまきます。人を受け入れる心の種を、です。それが大きく育ち、森の如くになったときに愚かな行いの緩衝材になることができるのかもしれません。2016/02/21
Gotoran
17
河合著書「影の現象学」繋がりにて本書(映画「戦場のメリークリスマス」の原書でもある)を読んだ。主に、太平洋戦争下ジャワの日本軍捕虜収容所での出来事に関わる登場人物(ハラとロレンス、セリエとヨノイ、セリエと彼の弟、ロレンスと少女、他)との交感を通して、心の葛藤と和解、危機的状況での情愛、束の間の恋、等が、鋭い洞察力を持って暗喩に満ちた深層心理的描写で緻密に物語られている。魂の深みが揺さぶられる。訳者(由良君美氏)あとがきも興味深い、著者とユングの交流があったと。他の作品も読んでみたい。2013/06/07
Ryuko
16
大島渚「戦場のメリークリスマス」の原作。西洋と東洋の価値観の衝突と相互理解、兄弟間の価値観の相違による断絶と和解を描く。ロレンスは日本人を理解する西洋人だ。日本支配の捕虜収容所に暮らす彼は、日本語と、当時の日本人の精神を理解し、しかし西洋的価値観も併せ持つ。今現在の私たち日本人よりも、第二次世界大戦時の日本人の精神も理解しているように思える。3部構成ではあるが、やはり、ロレンスとハラの交流を描いた「影さす牢格子」が印象に残った。「めりい・くりーすますぅ、ろーれんすさん。」たけしの笑顔がうかぶ。2015/03/26
しろ
10
☆5 和解の物語。第二次世界大戦下、日本の捕虜の米兵と日本兵との交流のようなものが描かれる。私見だが、非常に公平に語られている。だからこそ日本の罪も良く見えるが。その上でお互いがお互いを認めて、和解にいたるのは戦争を忘れさせてくれる。やはり結局は個人間の問題で、そこに国も歳も関係ないと思わせてくれた。そういえば、『戦場のメリークリスマス』の原作だったのか。まあ、観たことないからわからないけど。今度機会があったら観てみよう。2011/08/14
よおこ
7
こんな哲学的な本だったなんて。映画の興奮から一気に読んでしまったけど、日本兵の言動や印象を外国人兵の視点からきめ細かく記述していて、当時の日本人の精神性を知る上での貴重な資料にもなりそう。当時の日本兵の様式美や死生感を重んじる異質性は、現代の私にもなかなか理解しにくい。英国人からすればもっと理解しにくいと思うけど、捕虜として一緒に過ごした時間に日本兵の感情や考え方を作者なりに感じ取ろうとしたのだろう。 セリエの印象が本と映画で差がなく、むしろ印象が深まったのが嬉しかった。2021/05/03