内容説明
岡井隆は少年時代から虚無の近くにいた人間であった。目の前の世界が遠い所から見られた世界なのではないか。そんな風に現実感を喪失する瞬間が彼には何度もあったようである。この歌もそうだ。苦しさも喜びも、いまここにいる自分の感情とは思えない。自分はどこか遠いところにいて、ふりをしているだけだ。そんな風に思う。結句に登場する「霧生駅」はどこにあるのか分からない。が、とても美しい名前の駅だ。霧が深くたちこめるプラットホームに傘を差して立っている人々。その光景もどこか別の世界の出来事として感受してしまう作者。
著者等紹介
大辻隆弘[オオツジタカヒロ]
1960年三重県松阪市出身。歌人。一般社団法人未来短歌会理事長。歌誌「未来」編集発行人・選者。宮中歌会始選者。1986年、未来短歌会に入会。岡井隆に師事。歌集『抱擁韻』により現代歌人集会賞。『デプス』により寺山修司短歌賞。『景徳鎮』により斎藤茂吉短歌文学賞。『樟の窓』により小野市詩歌文学賞。他に『水廊』『ルーノ』『夏空彦』『只国』『汀暮抄』。歌書『アララギの脊梁』により島木赤彦文学賞・日本歌人クラブ評論賞。『近代短歌の範型』により佐藤佐太郎短歌賞。県立学校国語教師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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あや
29
大辻隆弘さんが岡井隆さんの34冊の歌集を全部読んで厳選した百首を解説した労作。20代30代の頃岡井隆さんの歌集を買い集め読んだのでその頃のことが思い出される。初期の作品も中期の作品も晩年の作品も良い。2023/12/31
門哉 彗遙
5
三回離婚してそれぞれに子どもも居て、四回目の結婚もしている岡井隆さん。そういうことも関係するのか、なにか苦しんでいるような反省しているような翳を感じる歌が多いように感じた。 ーーーーーーーーーーーー 抱くときに髪に湿りののこりいて美しかりし野の雨を言う▼ 匂いにも光沢(つや)あることをかなしみし一夜(ひとよ)につづく万の短夜(みじかよ)▼ 沸点に近づくなべに苦しくも薄幕は寄る牛乳(ちち)のおもてに▼ 2025/07/06