内容説明
一本の樫の木やさしそのなかに血は立ったまま眠れるものを(初期歌篇)。「十五才」の一首。「血は立ったまま眠れるものを」という比喩表現がきわめて魅力的。寺山修司自身もこの表現を気に入っており、一九六〇年、二十五歳の時に初の戯曲「血は立ったまま眠っている」を書いている。劇作家高取英によるとこのフレーズは、フランスの詩人エリュアールの「パリは立ったまま眠っている」を元歌としているそうだが、「血は立ったまま眠っている」の方が詩的起爆力は比較にならないほど大きい。樫の木の幹の中に立ったまま眠っている血、それは詩人の血であり、文学の魂そのものではないか。
目次
寺山修司の百首
解説 歌人・寺山修司―超新星の輝き
感想・レビュー
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kinkin
98
著者が選んだ寺山修司の歌、百首を紹介。彼の歌は好き嫌いが多いと思う。その作風が暗く、陰湿でミステリアス、ドロドロしたものを連想させるものが多いから。私は嫌いではない、むしろ好きだ。しかし寺山修司にしてみればそんなファンをも歌の対象にしていたかもしれない。花鳥風月の闇の部分が余計に好きだ。「地下水道いまは一話の小鳥の屍漂いていんわがチとともに」「一本の樫の木やさしそのなかにチは立ったまま眠れるものを」「生命線ひそかに変へむためにわが抽出しにある一本の釘」図書館本2022/12/07
あや
31
敬愛する歌人藤原龍一郎さんのご著書ということで手に取る。世代的には寺山修司のマルチな才能は知らず、カルメン・マキの「時には母のない子のように」が寺山修司作詞とは初めて知りました。短歌作品は青森県人らしく時々林檎が出てくるのが印象的。藤原龍一郎さんの解説により、時代背景などがよくわかり読者の大きな助けになっている。2024/02/25
毒兎真暗ミサ【副長】
27
団塊の世代を弾丸のように駆け抜けた寺山修司の歌集。その軌跡はナイフのように研ぎ澄まされているのに、いつも彼は誰かを傷つける事に怯えている。母とのトラウマ。悪夢に苛まれながら、ドフトエフスキーやチェーホフに救いを求めた。そんな彼の青春の吐露を乗せ『血と麦』『テーブルの上の荒野』『田園に死す』などからの白眉を抜粋。雲雀の血で大江を感じ、地下の屍で著者に反論したくなる。百首なる頁に赤いマネキュアが渇かぬままの涙なるかな。買い取ります。2023/07/19
わいほす(noririn_papa)
7
短歌においても寺山修司は寺山修司であり(寺山修司を天井桟敷のイメージでしか知らず、その活躍の始まりが短歌であったことすら知らなかったのであるが)、70年代前半のカウンターカルチャーを担う奇才の世界観に溢れている。ロシア文学や黒人悲歌などの香りを醸しながら、主観を客観に昇華させて鮮やかな映像シーンを歌で描いている。印象の残った歌:吊るされて玉葱芽ぐむ納屋ふかくツルゲエネフをはじめて読みき/テーブルの金魚しずかに退るなり女を抱きてきてすぐ乾く/きみが歌うクロッカスの歌も新しき家具の一つに数えんとする2024/12/13
まんだよつお
7
「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり」。この歌からは、いつも永島慎二『フーテン』第二部・夏の章冒頭の、麦わら帽子をかぶって全国を放浪しているみのりと、足の悪い少女との出会いと別れのエピソードを思い出してしまう。2024/02/05
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