内容説明
“エー、戦争ばなしを一席”街に軍歌があふれ出て笑うに笑えぬ高座がつづく―そんな時代を来させぬように。
目次
第1部 国策落語の成立過程と時代的背景(戦争開始とともに始まった落語界への接近;松井眞二少佐とはどういう人物か;日中戦争・太平洋戦争と国策落語の本格化;戦前の情報機関と国策落語;皮肉な国策落語量産の土壌)
第2部 戦争に協力した落語の「あらすじ」(「出征」などを名誉とした軍人賛美の落語;「隣組」「防空演習」など国民の戦時体制の落語;戦費確保のために「貯蓄・債券購入・献金」を奨励する落語;国民に耐乏生活を強いる国策に順応した落語;食糧増産を奨励する落語;金属類回収にかかわる国策落語)
第3部 こうして国策落語は消えた(終戦とともにその役割も消滅した;消えた国策落語が現代に伝えるメッセージ;七代目正蔵の国策落語「出征祝」をめぐって―金語楼の国策落語を改作したもの)
資料編
著者等紹介
柏木新[カシワギシン]
1948年生まれ。話芸史研究家・演芸評論家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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fwhd8325
60
どこでどうなると、誤った方向へ進んでしまうのだろう。カタカナ表記の芸能人は漢字表記になり、本来楽しむべき落語をこうして戦意高揚のために使う。まさに狂気としか言えないと思います。マスクを送るのに466億円使うのと同じくらい狂っています。歴史は繰り返すと言いますが、まさか…と思いたいです。国策落語は全く面白くありませんが、真面目にこうした時代があったと言うことはおかしくて仕方ありません。2020/04/24
ぼぶたろう
14
国家総動員法のもと、戦争に臨む日本は国民の意識を育て高めるために芸術・文化の力をも利用した。感染症の影響で表現の場を奪われたアーティスト、劇場たち。日本における政府と文化の在り方において、重なる部分もあり、途中苦しかった。芸術や文化は世情の影響を受けつつも、高潔で独立しておらねばならず、道具に成り下がればもはや破綻している。2020/09/22
無識者
9
「報国債券」「産めよ育てよ」「贅沢は敵だ」「金品回収」といった政策にあわせた落語が紹介されていて興味深い。つくってる人はプロなのでそれなりの工夫をしているが、戦後一切行われなくなったので当時の落語家にとって黒歴史であったのだろう。中身を見るとある程度の抵抗感があるともとれなくもないが、そういうのを率直に言えない環境というのがやはり病巣なのだろう。林家三平の出征祝の一部が動画サイトで見られるが、どうも靖国で話をする高須氏と雰囲気が被ってしまう。2020/03/06
海恵 ふきる
8
国策落語についてまとめられた数少ない本の中では、最も詳しいものなのではないか。入手困難な国策落語の台本を読む機会に恵まれたことはラッキーだった。愛国演芸同盟の結成は、陸軍省が呼びつけたものであると明確に指摘されている点が興味深い。また、情報局・大日本雄弁会講談社・講談落語協会の三つ巴によって国策落語が量産化される体制の礎を、戦前から国が築いていたという新事実も衝撃的だった。2021/12/27
時雨
7
大河ドラマ『いだてん』で言及された禁演落語への興味から手に取ったが、本書のトピックは禁演落語ではなく、時の政府の戦争遂行に迎合する形で生まれ、敗戦と共に姿を消した「国策落語」である。国策の数々とそれに対応・順応する演題のあらすじを紹介するくだりなど興味深かったが、本編で繰り返し強調される「天皇制政権が本来自由闊達な落語界に国策を押しつけた」という構図は単純化が過ぎるように感じた。落語への造詣は深くないが、落語は民衆の望むものを見せる一面もあるはずだ。被害者の立場に甘んじて歴史の反省は活かされるのだろうか。2020/05/29
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