内容説明
おしずの一途な愛をえがいた「おたふく」、家付き娘の放蕩無頼を相手に家と商売を守る意気をみせる「こんち午の日」、岡場所にもまことが出逢う「つゆのひぬま」、火鉢づくりにかけた職人の誇りがみんなの自慢の「ちゃん」など、庶民の心根をしみじみと語る好短編六作を収録。本書オリジナル編集。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903・6・22‐1967・2・17。本名:清水三十六(しみずさとむ)。山梨県生まれ。小学校卒業後、質店の東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む(筆名はこれに由来する)。雑誌記者などを経て1926年「須磨寺付近」で文壇に登場。庶民の立場から武士の苦衷や市井人の哀感を描いた時代小説、歴史小説などを発表。1943年、『日本婦道記』が上半期の直木賞に推されたが受賞を固辞。『樅の木は残った』『赤ひげ診療譚』『青べか物語』など、とくに晩年多くの傑作を発表し、高く評価された(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
81
店頭でタイトルに魅かれて、 目次も観ないで即買。【おたふく】から始まるこの短篇集は、装丁もいいので気に入りました。とりわけ【おたふく】は、何度でも読みたい大好きな短篇なので問題なし。ここでの紹介は勿論【おたふく】。この夫婦、はれた惚れたで所帯をもった俄か夫婦ではありません。晩婚ですが、初婚の初々しさがある相思相愛のおしどり夫婦です。亭主の貞次郎は彫り物師の腕は一級品、でも女に対しては根っから苦手。さて妻のおしずは…。この短篇は何度読み返しても飽きない、ホッコリした気持ちにしてくれる山本周五郎の傑作です。2025/03/15
ひさか
24
講談雑誌1949年4月号おたふく、オール讀物1956年3月号こんち午の日、小説新潮1956年6月号将監さまの細道、週刊朝日別冊陽春特別読物号1958年2月号ちゃん、オール讀物1956年12月号つゆのひぬま、小説新潮1959年10月号落葉の隣、の6つの市井人情もの短編を2022年4月本の泉社刊。「おたふく」がストレートで良い。「ちゃん」は抜け出せない生活とそれでも一緒に暮して行く家族の話が残酷でもあり、救いでもあり、感慨深い。山周さんの人情ものは深い。2023/08/01
JADE
15
山本さんの小説は「青い畳に正座して白いご飯を頬張るような」と書いたのは、開高さんだったと思う(うろ覚え)。ん十年ぶりの山本さん。図書館の新着情報で目にして、懐かしくなって予約した。江戸の片隅で、倹しいその日暮らしをしている人々の、ささやかな幸せと小さな夢を、しっとりとした文章で情感たっぷりに描いた六篇。夫婦の情愛にホロリとした「将監さまのほそみち」、男女の心のすれ違いにしんみりした「落ち葉の隣り」が特によかった。いつか、文章をじっくりと噛みしめながら、たっぷり時間をかけて再読してみたい1冊。 ☆42022/06/22
のほほん
13
短編が6編です。「おたふく」は10年以上も片恋だった相手と縁があって夫婦になった明るくてお人好しのおしずさんのお話です。よい心がけだとよいことがあるのかな。「ちゃん」はいい人でまじめな飲んだくれの重吉さんを子どもたちとささえるお直さんのお話です。重さん、家族のためにもお酒は控えめにね。「つゆのひぬま」は毀れかかった船のような人が来る岡場所で暮らしているおひろさんが、おぶんさんが幸せになるための手助けをするお話です。おひろさんにも心安らぐ日々がきますように。真にやさしく強い彼女たちの暮らしにため息がでます。2023/12/19
GO-FEET
6
このあいだの「武家篇」に引き続き、こちらも素晴らしいです。 「おたふく」 「こんち午の日」 「将監さまの細みち」 「ちゃん」 「つゆのひぬま」 「落ち葉の隣」 と粒ぞろい! で、かえすがえすも残念なこと。 こちらも誤字脱字が酷すぎる!2022/08/10