出版社内容情報
戦争や内戦、歴史への関心、第三世界とのかかわり――乱世を描き、乱世における知識人のあり方を問い続けた作家の全体像に迫る。
目次
序論 戦後派作家としての堀田善衞
第Ⅰ部 乱世を描く試み
第一章 朝鮮戦争 二〇世紀における政治と知識人
「広場の孤独」
第二章 国共内戦 歴史へのコミットメント
『歴史』
著者紹介
水溜真由美(みずたまり まゆみ)
東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了(学術博士)。現在、北海道大学大学院文学研究科准教授。専攻は、日本近現代思想史。著書に、『『サークル村』と森崎和江――交流と連帯のヴィジョン』(ナカニシヤ出版、2013年)、『カルチュラル・ポリティクス 1960/70』(北田暁大・野上元との共編著、せりか書房、2005年)など。
第三章 原爆投下 戦争の罪と裁き
『審判』
第四章 南京事件 宿命論との対決
『時間』
第五章 島原天草一揆 ユダとしての知識人
『海鳴りの底から』
第Ⅱ部 乱世を生きる作家・芸術家の肖像
第一章 西行
「西行」、「西行 旅」
第二章 鴨長明・藤原定家
『方丈記私記』、『定家明月記私抄』
第三章 ゴヤ
『ゴヤ』
第四章 モンテーニュ
『ミシェル 城館の人』
第Ⅲ部 アジア・アフリカ作家会議へのコミットメント
第一章 第三世界との出会い
第二章 中ソ対立の中で
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
1
堀田善衞のゴヤや方丈記に関する著作は興味深く読んだが、小説は正直面白いと思えなかった理由がこの評伝でわかった。彼が生涯のテーマとした戦争や政治に押し潰されかけた知識人の閉塞状況は、フィクションでは作りものめいて見えてしまうのだ。激動の時代に何もできなかったと痛感していたからこそ、開き直って「紅旗征戎吾事ニ非ズ」と和歌や思索、美術に没頭する芸術至上主義者に深い共感を寄せた結果、ノンフィクションでは戦前戦中の体験と重なって筆が躍動してくる。AA作家会議への参加なども、自分のそうした資質を理解した故ではないか。2019/08/06
猿田康二
1
本書で「乱世」においての知識人の生き方や振る舞いを生涯のテーマに掲げ、一貫した主題で作品を綴ってきたことに、著者が作品と共に堀田善衛という作家に深い共感と尊崇の念を抱いている事を感じた。同様に我々読者も著者という触媒を通じて堀田善衛とその作品や彼の生き方を改めて心に留め、自分の現在の考え方や振る舞いを問い直すきっかけをも作る機会を与えてくれた。そして、ここにも言動一致を実践した一人の人間がいたことに感銘を受け、その人を紹介してくれた本書と出会えた事に感謝した。2019/07/25