内容説明
サンデル教授の「白熱」生命倫理学教室。遺伝子操作やスマートドラッグやドーピングは悪か?何処までなら許されるのか?人間の身体増強への欲望は「正義」か。
目次
第1章 エンハンスメントの倫理
第2章 サイボーグ選手
第3章 設計される子ども、設計する親
第4章 新旧の優生学
第5章 支配と贈与
エピローグ 胚の倫理―幹細胞論争
著者等紹介
林芳紀[ハヤシヨシノリ]
1974年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。倫理学専攻。東京大学大学院医学系研究科特任助教
伊吹友秀[イブキトモヒデ]
1981年生まれ。東京大学大学院医学系研究科博士課程単位修得済退学。医療倫理学専攻。東京大学大学院医学系研究科特任研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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テツ
27
デザイナーズベイビーやら遺伝子操作やらについて色々と。人には生まれた瞬間から格差がある。持って生まれた能力、容姿、性格、そして親が持つ力。どうせ何もせずともありとあらゆる部分で山のような差があるんだから、富裕層が我が子が生まれる前に多少カスタマイズしたって大して変わりはないんじゃないかと個人的には思うけれど、これは僕が自分のこどもなんて死んでも欲しくないと思っているからそうした問題が他人事としてしか考えられないからなんだろうか。2018/08/29
フジマコ
27
マイケルサンデルはとても問題提起がうまい。聾がアイデンティティだと捉え、5世代前から聾の血筋の精子を手に入れ、聾の子を産むことは正しい事だろうか?高学歴、高身長の精子で妊娠するのと何が違うのか?レーシックの手術をして強くなったタイガーウッズはスーパースターのままで、ステロイドを使ってホームランを量産した野球選手はなぜ批判されなければならないのだろう?体の機能を高めたのは同じなのに。こんな風に深くこういう問題について考えたことがなかったけど、ドーピング=悪という単純な図式では語れないことがよくわかりました。2013/12/19
おーしつ
14
遺伝子のエンハンスによる「治療目的ではない医学技術の行使」の是非についての考察。 安全性、公平性、強制という観点による争点に例証を挙げ(例えば、子供への過干渉は現実でも溢れているなど)、軽やかに捌いていくのは流石の手腕。 「非贈与性に対する畏敬の喪失が、謙虚、責任、連帯において変容をもたらす」ことが問題であるという指摘はもっともだと思う。 ただ、胚性幹細胞研究の道徳性など理屈では結論が出ないことも多いのだろう。 あとがきの「サンデルブームに乗っかった本じゃないよ」的コメントがいいですね(笑) 2010/12/06
CCC
12
遺伝子操作やドーピングについて倫理的に考察している。エンハンスメントにはなにかバランスが欠けているように思われるところがあるが、なにがおかしいのか、本当におかしいと言えるのかは考えるとむずかしい。実際そうした違和感も、単に競争のフェア性や努力への信仰を脅かすからではないのか。天然の才能はありで、なぜ人為的ではダメなのか。そのひとつの答えとしてサンデルは責任の際限ない拡大という問題を持ち出しているけれど、社会競争の結果責任を取らされている人がすでにいる以上、説得力はないかもしれない。2022/09/18
Miyoshi Hirotaka
12
スポーツ選手の肉体は競技毎に最適化する。先天的な強みを生かしたプレーや努力で弱みを克服する姿は感動的だ。仮に遺伝子操作によりストライクならすべてホームランにする打者がいたら尊敬されるだろうか?必要以上の能力強化は贈られたものとしての命への崇敬を損なうばかりでなく不完全なものへの包容力や寛大さも失う。遺伝子工学の発達は止められないが、命は「さずかりもの」という独特の概念をもつ我われは生命倫理の問題に対し積極的であるべきだし、技術と倫理の調和をリードすることができる立場にある。2013/06/12