内容説明
江戸時代半ばに花開くも、わずか100年で廃れてしまった世界唯一にして幻の鉢植え文化「奇品」の全貌を紐解く。人為的に手を加えることなく、自然に変異した斑入り・葉変わりの草木を愛した江戸の奇品家たちの、高い美意識と豊穣な精神世界。美しいカラー図版も多数掲載。
目次
第1章 鉢植え前史
第2章 鉢植えと奇品愛好の歴史
第3章 奇品の諸特徴
第4章 奇品への情熱と愛情
第5章 水野忠暁によって伝えられた奇品の面影
第6章 驚くべき栽培技術
第7章 奇品の衣服
第8章 大衆化した幕末の奇品
第9章 奇品に宿る心性
著者等紹介
浜崎大[ハマサキダイ]
1966年、東京都豊島区生まれ。雑誌編集者で、『雑誌の死に方』『女性誌の源流』を著した浜崎廣の長男。1972年より埼玉県所沢市に住む。1989年、大東文化大学経済学部経済学科を卒業後、株式会社改良園に勤務。現在、『園芸世界』編集人(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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qoop
5
人工的な交配に寄らず、ただ自然の状態で変化が顕れた植物・奇品。江戸の鉢植え文化の中でも重要な位置を占めていた奇品と、奇品を尊び、愛し、育てた愛好家たち。茶道や華道のような求道精神と、本草学を凌ぐ観察眼を兼ね備えたその愉しみは、今に伝わってはいない。本書はそんな忘れられた過去を掘り起こす好著。江戸の園芸家の生活を垣間みる面白みがある上、図版も豊富で見飽きない。2012/09/18
鵐窟庵
4
江戸後期の園芸ブームに前に、武士や好事家の間で奇品が流行り、葉系や斑入り種の様々なバリエーションが高値で取引されていた。本書では、斑の入り方や鉢の種類、育て方増やし方、当時著名な奇品家について。ある奇品家の愛好っぷりは凄まじく、同じ奇品家の妻に奇品と自分がどちらが愛しているかと言った際に後者だと言って妻も理解を示したり、来客が奇品より鉢を誉めていたのを見て、目の前で鉢を叩き割って奇品の希少性を問うたり、人間の欲望には際限がない。それは不定形の植物に対して示す、近代以前の自然観であり、アニミズムでもあった。2021/08/22
meow3
4
今も昔も一部のマニアックな人が大切にレアな植物を育てているのは変わらない。が、「私と奇品どちらを愛してる?」「妻は奇品でおまえは妾」には参った。しかも同じく奇品好きの妾が納得し、二人は仲良しというのが時代の差だろうか。奇品の話だけでなく、道具や鉢、昔の温室であるところの室などの絵も豊富で植物好きにはオススメ。この本で紹介されている「草木錦葉集」を見る機会があったのだが、自分では解読できそうにないのと金額面で断念しました。2017/02/09
ミエル
4
この本に出会ってから、植物だけに係わらず、ものを見る視点にも奇品目線が出てくる。不自然で完璧なフォルムよりも、自然のままで不格好なものに愛着が湧くのは、わびさび精神の息づく日本生まれだからだろうか?2014/09/17