内容説明
こどもとおとなの切ない境界線を浮かび上がらせる。追憶と再生の、12の物語。
著者等紹介
阿部公彦[アベマサヒコ]
1966年生まれ。東京大学文学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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紅はこべ
114
平石貴樹編のアメリカ文学編を読んでからだいぶ時間が経ってしまった。読んだことのある作家はイシグロだけ。私、現代文学に疎いな。木に恋した女性の「五月」が一番印象に残った。彼女の恋人にとっては、何てことない普通の木。恋ってそういうもの。「敷物」「奇妙な召命」「はじめての懺悔」も良かった。私はアイルランド文学の方がより好みに合うみたい。しみじみっていうのとはちょっと違うかな。2020/02/03
マツユキ
15
『しみじみ読むアメリカ文学』が面白かったので、こちらも。読んだことがあるのはカズオ・イシグロだけなので、読めるかな?と思いましたが、意外なほど、するする読めました。若い主人公の作品が印象に残っていて、母の友人に会う『誰かに話した方がいい』、駆け落ちした若い男女『トンネル』、木に恋する『五月』、少年少女と宗教『奇妙な召命』『はじめての懺悔』が面白かったです。気になった作者の別の本を探しますが、なかなか難しい。『トンネル』のグレアム・スウィフトと、『はじめての懺悔』のフランク・オコナーは、手に入りそう。2022/08/26
miyu
14
グレアム・スウィフト、フランク・オコナーなど既読の作家たちの中でもっとも心に残ったのは、桂冠詩人アンドリュー・モーションの「屋根裏部屋で」だった。彼が16歳の時に交通事故に遭い昏睡状態が続いた母親に対する一篇の短い詩。限られた字数の中でこれほどに鮮やかに普遍的な心の描写をしてしまうとは。日頃から全くといってよいほど詩を理解しない私でさえも、この静かでそれでいて確固たる彼の囁きにとらわれてしまった。シェイマス・ヒーニー「清算」、エドナ・オブライエン「敷物」、ロン・バトリン「ドイツから来た子」あたりも好み。2014/09/03
やまはるか
10
12の短編集。しみじみとは「深く心にしみるさま」広辞苑。12の物語のしみじみはハッピーではない状態を表わす言葉のようだ。心当たりのない敷物が郵送されて喜んで使っているところに、所有者たる男が同名のため郵便屋が間違えたと言って引き取りにくる。がっかりした母は「エプロンのひもをほどいてから、またゆっくりと几帳面に結び直した。さっきより固い結び目をつくって」敷物。カズオイシグロ「ある家族の夕餉」母は昔フグを食べて死んだ。なのに父の家に息子と娘が久しぶりに集まった時、父はフグと告げず子供たちにフグ鍋をふるまう。2020/03/07
スイ
10
「わたしを離さないで」に出て来るエドナ・オブライエンが気になって手に取ったところ、思いがけずカズオ・イシグロの初期短編も収められていた。ラッキー! 様々な作家の短編や詩、どれも面白い。 それぞれの作家の解説も丁寧で良かった。 ただ、目次のところの、各編に「母娘しみじみ」といった調子で〜しみじみのコピーをつけたのは要らなかったかと…。 目的のエドナ・オブライエンの作品「敷物」は突出しており、読んでしばらく経っても、思い出すと頭を殴られたような衝撃が蘇る。見事。 カズオ・イシグロはホラーだった…やっぱりね…!2016/09/29