内容説明
戦後70年、「敗戦と性」をめぐる小説集。
著者等紹介
モラスキー,マイク[モラスキー,マイク] [Molasky,Michael S.]
1956年米国セントルイス市生まれ。1976年に初来日し、のべ20数年日本滞在。シカゴ大学大学院東アジア言語文明学研究科博士課程修了(日本文学で博士号)。ミネソタ大学、一橋大学教授を歴任。2013年秋学期より早稲田大学国際学術院教授。日本の戦後文化や都市空間を通じて、現代日本社会を捉えなおす講義を担当。日本語の編著書に、『戦後日本のジャズ文化』(青土社、2005年、サントリー学芸賞受賞)がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アキ・ラメーテ@家捨亭半為飯
36
前作、『闇市』に続く、紙礫シリーズ第二弾。終戦後、パンパンと呼ばれた主に米兵相手の街娼が登場するアンソロジー。オンリーは不特定多数の相手の売春ではなく、妾・現地妻のような存在。年をとったパンパンが主人公の「嘉間良心中」は、とても物悲しい。これを読んで、登場するパンパンたちのその後の人生が気になった。2016/12/06
空猫
22
終戦直後の混乱期を象徴する「闇市」から2冊目は「街娼」。上流階級のマダムまでパン助に『黄金伝説』。…日本の彼氏なんかと一緒になって馬鹿だよ。真面目にパンパンしてりゃいいのに『オンリーたち』。知らぬは亭主ばかり?『北海道千歳の女』。橋を渡れば娼館で『蝶になるまで』。悪意は勿論、正義も振りかざせば…『人間の羊』。58才の娼婦は…『嘉間良心中』。知能も身体にも障害のある45才の息子に人並みに嫁を迎えたいが『ランタナの花の咲く頃に』。2021/06/07
miunac
2
私は性=人生だと思っている。若い頃フロイトにかぶれたせいだろう。別にフェミニストのいう「性の商品化」や私が対立概念として考える仮に「売る主体としての性」と呼ぶものとか、この疫病の後、破綻した経済とモラルの中でどう生きるかとか、パンパンって今でいうとアイドルになる女の子だよな時代は変わるよな、とか全く考えていない。女の子が好きなだけである。大江健三郎の『人間の羊』は昔読んだ時よりはるかに印象深かった。あと、やっぱり平林たい子は面白い。2020/04/25
田中峰和
2
終戦直後、パンパンと呼ばれた街娼が登場する小説集。派手なドレスにハイヒールで街中を闊歩する姿は戦後史の汚点か。敗戦国日本にとって、占領軍に国土を蹂躙される辛い時期だった。主人公の少年が帰宅途中のバスの中で、酔っぱらった米軍兵士に難癖をつけられる「人間の羊」の心理描写は見事だ。絡まれた少年と乗客たちは下半身丸出しで背を屈めさせられ羊の真似をさせられる。それを傍観していた教員は、兵士がいなくなった途端、警察に被害届を出すよう少年に絡む。被害者が忘れたいのに、執拗に絡む教員の心理。善意の怪物は今も大手を振るう。2016/01/26
めーてる
1
女性が書いた作品からは、女性がおかれている/おかれていた現状への問題提起や、女性のエネルギーを感じる。男性が書いた作品は、女性たちとは一定の距離を感じる。特に強烈なのは「人間の羊」で、米兵の日本人を見下した態度と居合わせた男所詮他人事であるがゆえの義憤の後味の悪さ! 全体的に女性が書いた作品の方が好きだと感じた。他人事でなく、そういった女性たちを描いているからだと思う。2020/12/27