内容説明
書名の「共鳴」は、私が専攻する化学の分野で、よく使われる構造理論の一つである。父ゆうじと母憲子の作句法は、全く対照的であった。憲子は、俳句でも短歌でも、ごく初期の頃に大家の先生の特選を頂戴するという幸運に恵まれ、それを契機にそれぞれの道にのめり込んでいった感がある。その句(または歌)は、直情的であり、粗削りである。他方、ゆうじのそれは、沸き立つ情趣を先ず、多年の蘊蓄で包み、練り上げてゆく手法である。句には醸成されたこくがある。加えて面と向えば、頑固・強情な二人のこと、顧みて相手の作法を認め、容れることもしない。しかし、内心では互いに相手を畏敬しつつ、惹き合い競い合う面を持ち合わせてもいたようである。「お父さんには負けたくないわよ」「憲子には脱帽だね」などと言いながらも、胸中、互いの琴線を震わせ、句心を昂ぶらせていったことだろう。「共鳴」はそのような二人の在りし日を偲んで名付けた。
目次
長岡ゆうじ編
長岡憲子編