出版社内容情報
解離と憑依,言葉と記憶,語りとスキゾフレニア。ひとつの徴候の地下水脈を流れる臨床の裏面史を明かす文化精神医学の試み。
「医局での研修が終わり,オホーツク圏の総合病院精神科へ赴任しまもなくのころ,診察中突然若い女性が男の子の声で「僕はね……」と語りだし,驚くとともに当惑し,ただ見守るしかないという体験をした」
原点としての憑依論,統合失調症論,うつ病論,そしてアイヌのイム研究へと歩みを進めるなかで描かれる,日常臨床の周縁部にある原-光景との接触,そのリアリティから生活世界や精神医学を逆照射する軌跡。
本書に収録された代表的論考「精神科臨床とダイアロジスム」「精神科臨床とバフチンの思想」「統合失調症者と自己治癒的コミュニタスの形成」は,患者たちのポリフォニックな対話のなかで開かれる自己治癒の沃土としての微小文化を意識しつつ患者の経験を聞くという方法,すなわち精神科臨床における対話的民族誌を試みた精神医学の里程標(マイルストーン)であり,音読のリズムで精読すべき文化精神医学のコスモロジーを指し示す。
序言
1 文化装置の発見
第1章 手かざしを契機に発症した憑依症候群の一症例
第2章 憑依の臨床像
第3章 憑依と精神科臨床―歴史と文化の視点から
2 厚い記述をめざして
第4章 精神科臨床とダイアロジスム
第5章 精神科臨床とバフチンの思想
3 世に棲む臨床
第6章 統合失調症者と自己治癒的コミュニタスの形成
第7章 塀の中の不思議な面々
第8章 青年期抑うつ気分についての文化精神医学的考察
4 精神症候と社会文化的諸力
第9章 記憶・文化・多重人格
第10章 文化とフェミニズムの視点からみた現代アメリカのヒステリー
第11章 現代におけるうつ病の急増とジャネの神経症論
5 幻想の文化結合症候群
第12章 アイヌのイム研究の歴史について
第13章 田村幸雄と民族精神医学
第14章 アイヌのイムについて―ラターパラドックスを解く
内容説明
原点としての憑依論、統合失調症論、うつ病論、そしてアイヌのイム研究へと歩みを進めるなかで描かれる、日常臨床の周縁部にある原‐光景との接触、そのリアリティから生活世界や精神医学を逆照射する軌跡。本書に収録された代表的論考「精神科臨床とダイアロジスム」「精神科臨床とバフチンの思想」「統合失調症者と自己治癒的コミュニタスの形成」は、患者自身が形成する微小文化を意識しつつ患者の経験を聞くという方法、すなわち精神科臨床における対話的民族誌を試みた精神医学の里程標であり、音読のリズムで精読すべき文化精神医学のコスモロジーを指し示す。
目次
1 文化装置の発見(手かざしを契機に発症した憑依症候群の一症例―邪病との比較文化精神医学的考察;憑依の臨床像―複数の文化領域の生む複数のリアリティとその境界事象 ほか)
2 厚い記述をめざして(精神科臨床とダイアロジスム;精神科臨床とバフチンの思想―文化精神医学の方法論としての対話的民族誌)
3 世に棲む臨床(統合失調症者と自己治癒的コミュニタスの形成―微小文化と共通感覚の視点から;塀の中の不思議な面々―微小文化からみた精神科臨床 ほか)
4 精神症候と社会文化的諸力(記憶・文化・多重人格―Ian Hacking,Rewriting the Soul:Multiple Personality and the Sciences of Memoryを読む;文化とフェミニズムの視点からみた現代アメリカのヒステリー―HYSTORIES:Hysterical Epidemics and Modern Cultureを読む ほか)
5 幻想の文化結合症候群(アイヌのイム研究の歴史について―日本における文化精神医学のひとつの流れとして;田村幸雄と民族精神医学 ほか)
著者等紹介
大月康義[オオツキヤスヨシ]
1952年北海道旭川市生まれ。北海道大学理学部数学科、札幌医科大学卒業。北見赤十字病院。現在、大月クリニック院長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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