内容説明
カント超越論哲学の領野には、二つの深淵が口を開いている。その一つは「超越論的対象」と呼ばれ、もう一つは「超越論的自由」と呼ばれる。二つの淵に架けられた橋が、それぞれ「根源的統覚」であり、「意志の自律」であると言ってよい。多くの人が橋を渡り、その構造を調べてきたが、橋が何に架けられているのかを見ようとする人は少ない。しかし、ひとたびそれを見据えた者は、いったいカントが何をしようとし、何をしたことになるのか、根本において分からない、という実感をもつに至るだろう。本書は、このような実感をもつに至ったカント研究者たちによる論集である。かれらは、カントを祖述したり、その所説を小ぎれいに整理したりすることを意図してはいない。かれらは、カントの議論が含む何らかの主要なポイントを、執拗に、とことんまで論じ詰める。それによってかれらは、どのように「カントが分からない」のかを各々の仕方で確認することになる。
目次
1 他行為可能性と自由
2 意志と選択意志とにおける自由―カントとラインホルト
3 カント実践哲学における「自律」と「自由」
4 「道徳法則の下なる意志」と道徳法則の正当化
5 道徳性と自由の正当化―アリソンのカント解釈の検討
6 意志の自律と外的強制―カントの人権思想における自由概念
7 カントと弁神論