内容説明
故国ボスニアへの思慕。反政府活動で投獄された体験から生まれた若き日の散文詩、珠玉の短編、哲学的な随筆を集成したアンドリッチ文学の真髄。多民族の共生を願った作家が遺した、同胞への深い愛と感謝!ノーベル賞作家初期作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
キムチ
36
20年ほど前にに翻訳された。プリズンブックで知り手に取るが今まで読んだことがない形(散文詩・短編・随想)ので筆者アンドリッチが故国サラエボへの畏敬追想を鎮魂歌のようなイメージ色彩で語る。ただ冥ではなく、筆者が友人のメッセージを伝える手法を取っている。それは「憎悪は力を与え怒りは運動を喚起する・・」に続く1連の語り。そして憎悪から逃亡した男は消えた。。と。サラエボ事件は歴史的には表面的には知っているもののそこに息づき、生活する人々に直截的には近づけない。ただ彼が母とくらし、旅で見た情景を語る随想は美しい。2017/08/05
cockroach's garten
23
イヴォ•アンドリッチは旧ユーゴスラビ出身の作家で、当地域初めてのノーベル賞作家であったので興味はあったものの、短編集には面白味を感じられなかった。物語が抽象的キリスト教的観念論で埋め尽くされていたのが堅苦しく感じて、読みづらかったのが要因であると思う。表題作の『サラエボの鐘』は後のユーゴスラビア紛争でジェノサイドが起こる要因となった民族間の対立意識に触れていて興味深く思った。次は長編の『サラエボ物語』に挑戦してみたい。2020/07/15
かもめ通信
17
アンドリッチの新刊が出ると聞いて久々に手にした本。やはり表題作「サラエボの鐘--1920年の手紙」が強烈だ。 あるいはそれは“後付け”の印象にすぎないのかもしれないが。 新刊、この本の収録作品とどれぐらいかぶっているのかも気になるところ。2020/10/18
きゅー
13
散文詩、短編、随筆をまとめた1冊。ジャンルは異なるが、一から十まで彼の暗い想念に満たされている。短篇の「サラエボの鐘-1920年の手紙」において彼は、ボスニアは憎悪と恐怖の土地だと書いている。異民族国家の悲哀と運命が凝縮された言葉だが、その言葉はその後も長きにわたって命脈を保っていた。「今日のボスニアのような国では、憎む能力のない者、さらに遥かに困難なことだが意識的に憎もうと欲しない者は、いつも少しく余所者で変り者とみなされ、しばしば殉教者になる。」どれだけの憎しみと恐怖がこの地で生まれたのだろうか。2016/08/13
荒野の狼
5
ノーベル賞作家イヴォ・アンドリッチの短編集。孤独と絶望に打ちひしがれた主人公が人生は苦であると認識しながらも、生きるための精神の旅を続ける感動作“エクス・ポント(黒海より)”は、人は絶望の淵にあっても自分の魂をけっして見捨ててはいけない、人はいつまでも不幸でありつづけることはないのだからと応援歌を送るものです。“サラエボの鐘(1920年の手紙)”では宗教に根差す増悪を見つめます(信じ愛する者はー信じない者あるいは別様に信じ別なものを愛する者を死ぬほどに増悪する。2008/10/13