- ホーム
- > 和書
- > 文芸
- > 海外文学
- > その他ヨーロッパ文学
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
88
5世紀以上も前に、この街出身でトルコの宰相になったパシャが架けさせた橋。ボスニアとセルビアを繋ぐ橋である。冒頭の数十頁に渡る旧ユーゴの民族や歴史、言語、宗教の説明は、読み返してもその複雑さを理解し得ない。橋が架かる前も建設中も後も、民族や宗教の対立があった。セルビア人の首が橋に並べられた時代も。大戦でほぼ壊滅するまでは人々に何があっても橋はあった。書かれたのは二次大戦後の旧ユーゴ時代。橋は再建された。作者は他界しているが、その後の出来事も最後の章として加えられるべきだろう。この橋は民族浄化の舞台となった。2015/05/01
syaori
74
バルカン半島を流れるドリナ川にかかる橋とその住民の物語。16世紀「生きた税金」としてイスタンブールへ連れ去られる少年が母親たちを最後に見た岸辺、自然の前に人間が自らの無力を感じるその場所に建てたその橋は人間の手で作られた最も堅固なもの、その善い力の象徴で、そのため1914年、キリスト教、ユダヤ教、回教が憎悪や嫉妬を秘めながらも秩序と節度を失わなかった町の生活が失われた時に橋の運命も終わるのですが、橋はまた「どこかで建てられるだろう」という言葉には作者の人間への信頼が込められていて、静かな高揚がありました。2024/11/06
hiroizm
31
現ボスニア・ヘルツェゴビナの街ビシェグラードにある石橋の、建設時から第一次世界大戦で破壊されるまでの約400年にわたる歴史群像物語。 この地域は橋の建設時オスマン・トルコの支配下、以前から東西ローマの緩衝帯でもあり、カトリック、聖教、イスラム、ユダヤ教の人々がまだら模様に住む地域。支配者がオスマン帝国から独墺帝国へと遷移する中で、この小説は懸命に生きる市井の人々のエピソードを紡いでいく。自然主義の影響感じる大河ロマン。欧州史好きにはお勧め。2022/10/22
em
21
16世紀~第一次大戦が始まるまでのボスニアの橋を巡る物語。オスマン帝国、オーストリア=ハンガリー帝国といった周辺の大国への興味からここに辿り着いた読者(私)にとって、読みたかったものが詰まっていました。長い時間の中で国境が移動し、周辺国の情勢が「こだま」となって橋のたもとの町に影響を及ぼしていくさまが『ボスニア物語』と同じく丹念に描かれています。翻弄され、目覚め、打ちのめされることを繰り返してきた狭間の地。情念を押し付けることなく、橋という場を主役に据えることで、複雑な様相を鮮明に見せる筆は圧倒的。2017/12/08
秋良
18
ボスニアがまだオスマン帝国だった頃に作られた橋の定点観測。最後は第一次世界大戦で幕を閉じるが、この後も民族浄化や紛争で、破壊と虐殺が続いたことを知っている。古き良き時代という言い方は好きでないけど、民族の違いを超えてご近所さんだったのが、ナショナリズムの勃興と共に対立してしまうというのは進歩=善と無邪気に信じている人間に冷や水を浴びせるよう。と、そんなぐちゃぐちゃ考えなくても、ヨーロッパからもアジアからも端っこの国の雰囲気が知れて楽しく読める。2022/03/05