出版社内容情報
本書が取り上げるのは、「棄民」、すなわち国家にとって不必要な存在として救済から見棄てられた人々の代表といえる、「障害者」「非行少年」「ホームレス」の実態である。
川崎市に新設された支援学校の初代校長であり、ホームレスの人々や非行少年を受け入れ続けた教会の牧師である著者にとって、「棄民」は最も身近で深く関わった人たち。実体験を通じ著者は、ホームレスの人々や非行少年に対するいわれなき差別や偏見が社会の至る所にみられること、そして、彼らの多くは子ども期に親や身近な人からの「存在否定体験」を経験していることに気が付いた。彼らは決して自ら望んで今の立場にあるわけではない。不適応行動に追いやられた者であり、社会の犠牲者である。インクルーシブ教育の理念と活動が広がり、障害者との共生は不完全ながら前向きに目指されつつある。しかし、ホームレスや非行少年らを、「自助」・「自己責任」論を原理に棄民として排除している現代社会は、真のインクルーシブ社会とは程遠い。
本書において著者は、「棄民」の根底にある要因を理解すること、そして自らが実践してきた神奈川県での先進的な教育・講演・活動をもとに、障害者だけを対象としないインクルーシブ教育の重要性を提示する。さらに、障害児教育の理念や専門的指導システムが、ホームレスや非行少年にまで適応できる汎用性と可能性をもっていることを示す。
障害者教育を専門とする教師とキリスト教の牧師という立場を経験した著者にしか暴くことのできない、現代社会の闇と傲慢、そして真のインクルーシブ社会への展望です。
【目次】
はじめに
第一章 国家の棄民政策
第二章 優生思想と障害者
第三章 非行少年を受け入れない社会
第四章 ホームレスの社会自立を断念させる政治
第五章 子ども期の「存在否定体験」は何をもたらすのか
第六章 インクルーシブ社会の実現に向けて
参考文献一覧
あとがき