出版社内容情報
1870年代に廃県・廃仏毀釈による大変革を蒙った奈良県(大和国)。19世紀後半、中央のアカデミズムから、国威発揚のための良質な素材を抱いた地として熱い視線を受けながら、しかし現地で圧倒的に親しまれたのは、モノや場所を媒介にして強固に社会へと根付いた、体系性に欠け整合性も怪しい知識、すなわち「土着」した知であった。アカデミズムは、知の黒船とはなり得なかったのである。
郷土研究者たちは、平城宮跡や南朝史蹟という土地の由緒を掌握・顕彰すべく格闘した19世紀をへて、20世紀に入って訪れた雑誌の季節(読書社会)には、師範学校を軸とするネットワークを駆使して、民俗研究を土俗研究に、考古学研究を金石研究に読み替えつつ盛んに研究を行った。それらは1930年代以降の郷土教育運動へもつながってゆく。そして、「帝国日本」を所与の背景に、仏教文物や実用マレー語といったモノと知識を求めて海外雄飛する者も現れる。
本書は、近代奈良に充満する「好古の瘴気」に中てられた郷土研究者たちの、時に常識はずれで不道徳にすら見える興味深い営為――柳田国男のいう「郷土で研究」すること――を詳細に追い、そこに立ち現れる強烈な現場・現物主義と、場所(踏査)とモノ(収集)への飽くなき執着とから、地域の知的構造を明らかにする。
内容説明
アカデミズムの視線を撥ね返す、あくなき蒐集・踏査と人々のネットワーク。「郷土で研究する」(柳田国男)ことの意味を近代奈良に探る。
目次
郷土に何が起こったか
顕彰のモニュメント(平城神宮創建計画と奈良―「南都」と「古京」をつなぐもの;南朝史蹟の考証と地域社会―北畠治房と賀名生村)
師範ネットワークと雑誌(高田十郎『なら』に見る近代大和の「地域研究」ネットワーク;「うまし国奈良」の形成と万葉地理研究;奈良万葉植物園の創設過程;蒐集家崎山卯左衛門の郷土研究)
雄飛する心身(雑誌『寧楽』の仏教美術研究―郷土文化と請来古物;宮武正道の「語学道楽」―趣味人と帝国日本)
付録 インドネシアからの手紙―兵士と言語研究者
著者等紹介
黒岩康博[クロイワヤスヒロ]
1974年京都市生まれ。2004年京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。京都大学人文科学研究所助教を経て、2014年より天理大学文学部歴史文化学科講師。博士(文学)。専門は社会・文化・娯楽を主とする日本近代史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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