出版社内容情報
本書は文化遺産を過去の中に閉じ込めずに、生きている遺産として多元的に把握しようとするものである。
▼文化遺産がもたらす光と影を描きだす。
文化遺産は、博物館に保管され、展示される遺物とは異なり、現在生きている人々の生活実践に関わり、過去から受け継がれ、現在を生き、未来へと継承されるものである。現代社会では、文化遺産を単に保護・保存するだけでなく、どのように付き合い、活用し、未来に託すかが問われている。本書は文化遺産を過去の中に閉じ込めずに、生きている遺産として多元的に把握しようとするものである。
序 アジアの文化遺産
―― 過去・現在・未来(鈴木 正崇)
はじめに /
1 世界遺産 /
2 世界遺産と日本 /
3 無形文化遺産 /
4 文化遺産の「拡大解釈」 /
5 文化遺産への多様なアプローチ /
6 遺産の増殖 /
7 文化遺産の転換期
世界遺産条約の課題とこれからの遺産アプローチ(稲葉 信子)
はじめに ―― 和食が世界遺産に? /
1 国際的な遺産ブランドのいろいろ /
2 保護あるいは保存か、保全かの議論について /
3 カルチュラルランドスケープ―文化的景観―を例に考える /
4 遺産のカテゴリーか、アプローチか /
5 オーセンティシティの議論と文化の多様性 /
6 世界遺産条約と遺産保護制度の今後 /
7 結びにかえて
ミャンマーの文化政策 ―― ビルマ文化中心主義と、ある民族誌家の肖像(??谷 紀夫)
はじめに /
1 ミャンマー(旧ビルマ)の「文化」観 ―― 文化政策の文脈から /
2 ミャンマーの世界遺産登録の現状 /
3 民族誌家ミン・ナイン(U Min Naing, B.A.)の足跡から /
4 ビルマ民族誌研究の系譜とミン・ナイン /
5 ミン・ナインの言説から /
6 おわりに
アンコール王朝繁栄の謎 ―― 碑文解読による歴史発見物語(石澤 良昭)
はじめに ―― 碑文は「生」の声を伝えている /
1 カンボジア碑刻文はG・セデスが解読した /
2 碑文情報からアンコール時代の古生活環境を復元 /
3 碑文が伝える情報を現場において読み解く /
4 碑文は寺院資財帖であり、村落の社会と経済の活動を反映してい
る /
5 たわわに実った稲穂・ゆったりとした時間・神仏への敬虔な祈り
―― 村人の日常生活 /
6 門前町の市場と村の副業から /
7 「富貴真臘」とアンコール・ワット /
8 アンコール王朝を「構造史」に捉えていく /
9 碑文情報は平穏な日常生活が続いていた史実を伝えている
ベトナムの世界遺産ホイアンと日本の歴史的関係(菊池 誠一)
はじめに /
1 江戸時代の朱印船貿易とベトナム /
2 ホイアンの歴史的形成 /
3 ホイアンの日本町 /
4 ホイアンの日本町跡を発掘する /
5 朱印船貿易絵図と考古学調査 /
6 「鎖国」後のホイアン /
7 現在のホイアンをめぐる日越関係
ガムラン ―― バリの音伝統と文化遺産(皆川 厚一)
はじめに ―― ガムランについて /
1 バリ芸能について /
2 ガムランの分類 /
3 伝承における諸問題
インド仏教聖地と文化遺産 ―― ボードガヤーの変容(前島 訓子)
はじめに /
1 仏教最大の聖地における世界遺産 /
2 「仏教聖地」の再建 ―― 歴史的建造物から生きている遺産へ /
3 ボードガヤーにおける不可触民集落の仏教改宗 /
4 おわりに
世界遺産としてのバーミヤン遺跡(前田 耕作)
はじめに /
1 歴史的古道 /
2 アレクサンドロス以後 /
3 東西大国の関心 /
4 クシャン朝からササン朝へ /
5 ササン朝以降 /
6 玄奘の道 /
7 今日のバーミヤン /
8 戦後のバーミヤン /
9 バーミヤンにおける戦後復興 /
10 保存作業の推進 /
11 経典の発見 /
12 壁画が明かす文化 /
13 転換期にさしかかる世界遺産バーミヤン
エスニックツーリズムと文化遺産 ―― 麗江とタナ・トラジャ
(藤木 庸介)
はじめに ―― 考察に先立つ「問」 /
1 エスニックツーリズムとは何か? /
2 中国雲南省麗江旧市街地 /
3 インドネシア ―― タナ・トラジャ /
4 まとめ
中国における「遺産」政策と現実との相克
―― ユネスコから「伝統の担い手」まで(菅 豊)
はじめに /
1 過熱する中国の文化ポリティクス /
2 文化保護と観光開発の地方政策 ―― 古鎮化 /
3 「遺産」制度から「伝統の担い手」へのインパクト /
4 古鎮化による非物質文化遺産の創造 /
5 まとめ
韓国の無形遺産保護政策の成立と展開(朴 原模)
はじめに /
1 「文化財保護法」の制定と行政体系の構築 /
2 無形文化財の指定制度の成立と展開 /
3 無形文化財の伝承教育体系の構築 /
4 無形文化財の保護・育成のための公的支援 /
5 無形文化財に関する新しい法律の制定 /
6 おわりに
「白川郷」で暮らす ―― 世界遺産登録の光と影(才津 祐美子)
はじめに /
1 白川村発見の経緯 /
2 「合掌造り」の保存と文化遺産化 /
3 世界遺産登録の影響 /
4 世界遺産「白川郷」を支えているもの /
5 生きている文化遺産のゆくえ
無形遺産条約と日韓の文化財保護法 ―― その対応の相違(岩本 通弥)
はじめに ―― 合わせ鏡としての日韓 /
1 二つの復元事業 ―― 佐渡奉行所とソウル南大門 /
2 文化財保護法の誕生と日韓類似の歴史的交錯性 /
3 乖離する日韓の文化財保護法 /
4 運用の異なる文化財の保護と管理 /
5 グローバル・ポリティクスの場としてのユネスコ ―― 熾烈化する
登載競争 /
6 おわりに ―― 理念と競争のはざまで
日本の文化財政策 ―― 無形文化遺産と文化的景観(菊池 健策)
はじめに ―― 日本の無形の文化財の保護制度 /
1 日本における無形の文化財の範囲 /
2 日本の文化財保護の歴史 /
3 文化財保護のシステム /
4 保護施策 /
5 無形文化遺産の保護に関する条約における無形文化遺産 /
6 文化的景観 /
7 まとめ
執筆者紹介
【著者紹介】
鈴木 正崇
慶應義塾大学名誉教授・慶應義塾大学東アジア研究所客員所員。専門は、文化人類学、宗教学。
1949年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。
主要著作に、『ミャオ族の歴史と文化の動態―中国南部山地民の想像力の変容―』(風響社、2012年)、『山岳信仰―日本文化の根幹を探る―』(中央公論新社、2015年)など。
目次
アジアの文化遺産―過去・現在・未来
世界遺産条約の課題とこれからの遺産アプローチ
ミャンマーの文化政策―ビルマ文化中心主義と、ある民族誌家の肖像
アンコール王朝繁栄の謎―碑文解読による歴史発見物語
ベトナムの世界遺産ホイアンと日本の歴史的関係
ガムラン―バリの音伝統と文化遺産
インド仏教聖地と文化遺産―ボードガヤーの変容
世界遺産としてのバーミヤン遺跡
エスニックツーリズムと文化遺産―麗江とタナ・トラジャ
中国における「遺産」政策と現実との相克―ユネスコから「伝統の担い手」まで
韓国の無形遺産保護政策の成立と展開
「白川郷」で暮らす―世界遺産登録の光と影
無形遺産条約と日韓の文化財保護法―その対応の相違
日本の文化財政策―無形文化遺産と文化的景観
著者等紹介
鈴木正崇[スズキマサタカ]
慶應義塾大学名誉教授・慶應義塾大学東アジア研究所客員所員。文化人類学、宗教学。1949年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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