内容説明
セルビア・クロアチア語やスロヴェニア語で「記念碑」という意味を持つ“スポメニック”。第2次世界大戦中の枢軸国軍による占領の恐怖と、占領軍から勝ち取った勝利を示すため、1960年代から1990年代にかけて制作された先駆的な抽象表現の記念碑のことである。本書では、旧ユーゴスラヴィア圏に建設されたスポメニック81点を掲載。どこか近未来的な雰囲気を醸し出すそれぞれの建築物を、歴史、建築デザインが行われた背景、そして立地に関する情報とともに知ることができる。
目次
アンドリェヴィツァ
アーヴァラ
バルタナ
ビハチ
ボトゥン
ブラートゥナツ
ブラフスコ
ブレゾヴィツァ
ブルゼーチェ
チャチャク〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
南雲吾朗
70
スポメニック、旧ユーゴスラヴィア時代に建造された巨大建造物。紛争が絶えない地域だからこそ(鎮魂など)様々な意味でこのようなモニュメントが造られる傾向があるのだろう。ユーゴスラヴィア崩壊後、放置されているものが多いのが、すごく残念だが…。この本を手にしてから、これらの建造物をグーグルアースで夜な夜な検索しつつちびちびとお酒を飲むという変な癖がついてしまった(^-^;最近のお気に入りはスポメニックではないがイギリスにあるエンジェル・オブ・ザ・ノースである。2020/09/19
田氏
27
みんな大好き巨大建造物。ママエフの丘の『母なる祖国像』みたいのもいいけど、抽象モニュメントもなかなかどうして蠱惑的。旧ユーゴスラヴィアには、モダニズムに社会主義の文脈を孕んだ記念碑――セルビア・クロアチア語でいう「スポメニック」が点在する。扉絵にある幾何学的なデザインのものもあれば、ベクシンスキーの絵から出てきたような有機的なものもある。それらをデータベース化したサイトを、撮り下ろし写真を多数添えて書籍化したのが本書。どれも戦争という影を背負ってはいるけれど、文脈を離れてただ眺めてみるのもいいかとも思う。2021/07/24
tom
24
読友さんのコメントを読み借りて来る。旧ユーゴの巨大建造物の写真集。写真に添付されたコメントを読んで驚く。すべて1940年代の戦争の時代に殺された仲間を悼むためのものだった。その数、80を超える。いずれについても、死者の数が語られる。「300人以上のセルビア系小作農が殺された」「1000人以上のブリレル系住民を逮捕し、殴られ、拷問を受けて死亡した」・・・。巨大建造物は、死者のためのモニュメントだった。これを作らねばと考える思う人があり、こういう記憶は容易なことで消えることもないなどと思いながら頁をめくる。2024/01/31
kei-zu
23
表紙の写真、霧煙る中に立つ異形はエヴァの「使途」のようだ。「スポメニック」とは、セルビア・クロアチア語で「記念碑」のこと。この写真は、コスマイ・パルチザン部隊戦死兵慰霊碑だという。 複雑な事情を背景に設立されたユーゴスラヴィアには、「集団的な記憶」として巨大な記念碑が多く建築されたそうだ。抽象的な思念の実存化という点では「使途」に近いか。 同国の分裂に伴いそれらは憎悪の対象にもなったとのこと。破壊されたものも少なくない中、地元で小規模な式典が行われるものもあるという説明に、多少だが救われる思いがする。2021/05/02
グラコロ
22
スポメニックとは元々は記念碑という意味らしいが、ここに登場する数々の巨大建造物は、第二次世界大戦中に侵略してきた枢軸国と戦うパルチザン軍の戦死者や、枢軸国の傀儡国家に民族洗浄された住民たちの慰霊碑として造られた。かつての激戦地や処刑地や収容所に位置し、納骨堂を備えたものもあった。60年代から80年代に多く造られ、そのほとんどはユーゴスラビアの崩壊と紛争で打ち捨てられたたまま忘れ去られ、破壊されたものもある。なんにもない草地にいきなり10〜20mのスポメニックがドーンとあるコンクリートの遺物はまさにSF。2023/02/25