内容説明
明治国家の天皇制による統制に真正面から対抗し、独自の平和主義・民主主義に依拠して国体論や軍国主義を激烈に批判、また廃娼運動を主導するとともに婦人参政権の実現を訴えた木下尚江。国家権力からの自由を主張し、理想と情熱に燃えて社会の進歩に身を投じた彼の思想的闘争の軌跡を辿る。
目次
第1部 明治中期のキリスト教界と木下尚江(明治中期におけるキリスト者の「男女関係」論とその変遷;松本時代における木下尚江―キリスト教的社会改良運動と女性論)
第2部 明治後期のキリスト教界と国家(巌本善治の女子教育論―「帝国」と「女学」;植村正久の「武士道」論―日清・日露戦争とキリスト者;海老名弾正の「忠君敬神」思想―キリスト教による「国体」の弁証)
第3部 明治後期の木下尚江―女性と国家をめぐって(木下尚江における「廃娼」の思想―虐げられた者の権利とその回復をめざして;明治期キリスト教界と木下尚江―「野生の信徒」の革命;木下尚江と日本基督教婦人矯風会―女性と国家をめぐって)
著者等紹介
鄭〓汀[チョンヒョンジョン]
1967年韓国ソウル生まれ。梨花女子大学(韓国)卒業。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程修了、博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科学術研究員を経て、2013年度より日本学術振興会外国人特別研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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trazom
59
国家主義に迎合する教会に異を唱え、福音の精神に基づいて女性の権利獲得などに奔走した木下尚江を再評価する論文である。確かに「武士道」や「忠君敬神」を唱え、国体との調和を目指す植村正久や海老名弾正の「上からのキリスト教」に対し、木下尚江の「野生の信徒」としての眼差しの温かさが救いである。ただ私は、木下尚江は、宗教家と言うより、(もちろんキリスト教の精神に支えられているが)社会運動家と呼ぶ方がいいのではないかと思っていた。彼を余りにも宗教的に捉え、植村・海老名たちを対極者として批判するのは、少し一面的かも…。2020/08/20
松本直哉
22
「国家と宗教は両立しない」という井上哲次郎が正しく、人は二人の主人に仕えることはできない。宗教者は国家から迫害されるのが当然なのに、保身のために国家にすり寄り忠君愛国と日露開戦論を唱える曲学阿世のプロテスタント教会が見苦しい。これを敢然と批判した木下尚江は自ら「野生の信徒」と名乗るとおり、天皇制国家と既成の教会を敵に回して孤独に戦う。特に廃娼運動や女子選挙権など、弱者の女性に、上から目線ではなく、迫害された娼妓の痛みを自らも分かち合い、進んでかかわってゆく、その優しい眼差しが印象に残った。2020/08/01