出版社内容情報
本書は『物質は何からできているのか――アップルパイのレシピから素粒子を考えてみた』の著者による最新作。今回は標準モデル(標準模型ともいう)についてのアノマリー(異常)について面白く語っている。標準モデルとは、素粒子物理学における理論では、宇宙に存在する4つの力のうち強い相互作用、弱い相互作用、電磁相互作用の3つを記述するためのモデル(重力は除くため)のことで、20世紀における物理学の到達点とも言われる。宇宙論に関しても標準モデルがあって、こちらはビッグバンからはじまる膨張する宇宙について記述しているが、標準モデルで説明可能なのはわずか5パーセント程度と言われている(説明できないからダークマターやダークエネルギーなどがある)。どちらも、まだわからないことが多く、調べれば調べるほど数値の異常が見つかるため、その理論の正しさが常に検証されている。そこにはニュートンまでの物理学がアインシュタインによる相対性理論によって、まったく新しい物理学として書き直されたのと同様の考えがある。また、これらの4つの力はもともと1つだった可能性があり、そのため3つだけを記述する理論では不十分となり、この標準モデルを越える理論が求められることにもなっている。とは言え、この3つだけをまとめる理論も完成はしていない。
これまで物理学は先に理論を打ち立て、それを実験によって確かめるという方法を取ってきた。ヒッグス粒子の発見はそうした流れにおける象徴的な出来事で、これによって標準モデルという理論の正しさが確認されたのだ。そしてこれですべてが解明された(ニュートンの時代も同様)と思わずにはいられなかった。しかし、本当にそうだろうか? と考える物理学者が出てきた。そして徐々に実験精度が高まり、また大規模な実験が出来るようになり、これまでの「標準モデル」から逸脱する実験結果がたくさん見つかるようにもなってきた。そのため実験結果から理論を見直すという方向に変化してきてもいる。つまり、アインシュタインによる一大転換からさらに新しい物理学を探そう、という方向に向かっているのだ。本書はその現状とこれまでの経過を前作と同様、研究者へのインタビューも含め、わかりやすく面白く書きまとめた読み物となっている。さて、新しい物理学は見つかるのだろうか。
【目次】
プロローグ
第1章 宇宙の物語―宇宙の起源、物質の性質、そして私たちがまだ理解していないこと
第2章 惑星ヴァルカン―宇宙の理解を大きく変えた2つのアノマリー
第3章 不確かさにだまされる―科学を迷わせるアノマリーから身を守るには
第4章 氷の下から届いた粒子―南極の氷の下から現れたあり得ない粒子は、新たな亜原子世界の手がかりなのか
第5章 磁気のミステリー―ミューオンの磁気は新たな力の隠れた影響を明らかにするのか
第6章 機械の中の幽霊―ニュートリノの予想外の性質をめぐる20年来の謎には、隠れた宇宙への手がかりがあるのか
第7章 美と真実―LHCの物理学者たちは、説明できないふるまいをする素粒子を見つけた。亜原子世界のもっと壮大な描像の初めての手がかりなのだろうか
第8章 天界の争い―宇宙の膨張速度をめぐる意見の違いが宇宙論の世界に分断を生んでいる。宇宙の理解に変革が起きようとしているのだろうか
第9章 宇宙をめぐる謎―アノマリーが現れては消え、また新たなアノマリーが現れる
第10章 計り知れない創造の恵み