出版社内容情報
「毛皮を着たヴィーナス」の著者マゾッホが,反ユダヤ主義の高揚に抗して綴った,宗教色豊かなユダヤ人の日常世界。収録した16本の短編は,すでに失われたユダヤ人の生活を記録した異色のルポともいえよう。マゾッホ没後100年記念出版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
56
「ヨーロッパのさまざまな国々におけるユダヤ人の姿」を描いた短編集。作者はユダヤ人ではないですが、離散後、欧州中に散らばったユダヤ人の共同体の生活を、彼らへの差別や敵意にも目を配りつつ、仮庵の祭や結婚の仲介といった民族の伝統的な風習や風俗を交えて魅力的に浮かび上がらせてゆきます。彼はそれを家族や恋人たちの美しい愛の物語で彩っていて、そこにユダヤ人に対する「大きな迫害が進行中である」世界への作者の思いも窺えるよう。ただそれを考えずとも、この幸福な物語では作者の軽やかで洒脱な面を楽しめて、個人的にはとても好き。2021/07/29
刳森伸一
3
マゾヒズムの語源にもなったマゾッホによる連作短篇集。ユダヤ人の生活を丹念に描いたゲットー文学であり、『毛皮を着たヴィーナス』のようなマゾ文学とは一線を画す内容となっている。各短篇とも滋味深く、ユダヤ人に対する敬意を感じる良著だと思う。ところどころに性癖が現れているのはご愛敬か。2021/02/06
amanon
1
解説にもある通り、マゾッホに対する先入観を抱いて読むと肩透かしを食らうはず。それと同時に「マゾッホってユダヤ系だったの?」と思うくらいにユダヤ人及び、その文化や歴史への愛が感じられる。特に巻末のエッセイにおけるユダヤ賛美と擁護はちょっと奇異にさえ思えるもので、著者にここまでのことを書かせるものは一体何なのだろう?という気になる。聖書に関する知識がないと理解しづらい箇所が少なくないが、ストーリーはどれも単純。しかし、微妙に嗜虐趣味や女性崇拝的な要素が垣間見られるのが、著者の真骨頂と言えるかもしれない。2017/01/01
13km
1
ユダヤ人の起源を辿れば天地創造にまで遡ることを思うと、ユダヤ人というのはなんだかおとぎ話の住人のようだと思いました。この本も小説集というよりは寓話集という印象でした。 嫌われまくって迫害されまくりのユダヤ人だけど、彼らが今の世界の基盤を作ったことを考えるとやはりすごい民族というか集団だなと思います。2013/09/02
ソフィ
0
マゾッホもゲットー小説なる文学ジャンルもまるで知らなかったので本当に勉強になった。特に巻末の解説が今の自分にはどんぴしゃりで、東欧ユダヤ人に関して抱いていたもやもやがずいぶんクリアになった。本編で気に入ったのは、心配性だった女の子がある事件を境にデキる女性に変貌する「子猫のペーテルジール」。2018/07/25
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- 和書
- 天国と地獄の結婚