内容説明
古来より人類を魅了してきた夢。夢の探求には、フロイトによって開花した深層心理学的な流れがある一方、レム睡眠の発見により進展した脳生理学的な研究という流れがある。また、夢データを蓄積する統計学的研究は夢の進化理論の提唱をもたらした。さらには、夢の世界をありのままに理解する夢の現象学という試みも始まっている。本書は、夢探求の4000年に及ぶ歴史を整理し、文理にまたがる総合科学としての姿を描き出す夢科学の決定版である。
目次
序章 映画『マトリックス』の問い―付 本書の構成
第1章 『ギルガメシュ叙事詩』に始まる
第2章 フロイトとユング―深層心理学の時代
第3章 レム睡眠の発見―夢の現代科学のはじまり
第4章 もう一つの夢の現代科学―シリーズ分析と内容分析
第5章 夢には何の意味もない?―レム睡眠の仕組みと夢の脳生理学的なモデル
第6章 レム睡眠の機能―記憶の整理?
第7章 夢と記憶―夢の源泉は前日の記憶か
第8章 夢の進化理論
第9章 明晰夢と自己認識の誕生
終章 夢の現象学
著者等紹介
渡辺恒夫[ワタナベツネオ]
京都大学文学部で哲学を、同大学院文学研究科で心理学を専攻。博士(学術)。現在、東邦大学理学部生命環境科学科教授。専門は生涯発達心理学(自我論)、科学基礎論、環境心理学と、多岐にわたる。ブログ「夢日記・思索幻想日記」で、夢の現象学を実践している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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恋愛爆弾
18
脳幹から発生するP(橋 pons)G(膝状体 geniculate body)O(後頭葉 occipital body)波によって急速眼球運動が引き起こされ大脳皮質を刺激して夢の内容を変化させるというミッシェル・ジュヴェの研究をアラン・ホブソンは発展させる。アミン系細胞の活動の低下(ノンレム睡眠)を経てコリン作動性細胞が活性化され視床中継核が刺激され、新皮質や辺縁皮質が賦活されレム睡眠に入ることにより、外部からの入力情報も運動神経への出力信号も遮断されるにも関わらず脳の活性水準が高い状態では、2022/05/14
Arisaku_0225
10
面白かった。夢は何なのか?を古代の詩集から現代の分子生物学的な研究を交えながら夢とは何かを考察している。そして現在では夢自体の研究というより睡眠の研究の副産物という位置にあり、本書はその段階からさらに進み夢の「現象学」として捉える。現実世界と夢世界を対等に捉える考え方から自己を捉え直す試みは非常に興味深い。特に良かったのが筆者や学生が見た夢日記を例にあげながらそれぞれの説(例えばフロイトやユング)に当てはめながら(時には批判しながら)分析している点だ。これだけ見ても夢は多様であり、ミステリアスだ。2022/10/12
内島菫
6
夢研究では一番立ち遅れているという夢の現象学の分野が、自分が一番知りたい夢についての切り口だと分かった。現実の日常世界での固定観念で夢の世界を見ないようにするためには、やはり自分の夢を観察・記録することが一番だ。他人の夢の記録も参考にはなると思うが、言葉にしにくい夢の世界で体験した感覚的な雰囲気こそ夢の文法を伝えるものだろうから。夢が、脳のこの分泌物によるものとか、何かの役に立つ機能であるとか、あるいは何の意味もないノイズであるといったように、夢とは異質な説明のつくものに還元する誘惑に勝ちたいと思う。2014/12/05
讃壽鐵朗
5
夢と睡眠に関する最新情報が満載2017/05/29
米川青馬
3
読了。夢研究・夢科学についての歴史と現在。どうしても最近の科学はフロイト・ユングを否定しがちだし、フロイト・ユング派は最近の科学を語ろうとしない。どちらも肯定的に捉えて、かつさらに前の東西の夢研究の歴史にも足をつっこむ姿勢が素敵な一冊。後半の、夢の進化心理学、夢の現象学、明晰夢のあたりが特に興味深かった。夢は古代のヒトが生き残るために欠かせなかった「驚異的状況のシミュレーション」ではないか、いまだに人間は古代の癖を保ち続けているのではないかという進化心理学的説明が、個人的には一番納得がいく。2012/05/20