内容説明
「サヨナラ、友ヨ、イツカ、向コウデ会オウ」(「イツカ、向コウデ」)「束の間に人生は過ぎ去るが、ことばはとどまる、ひとの心のいちばん奥の本棚に」(「草稿のままの人生」)―親しかった人、場所、猫、書物、樹、旋律…などの記憶に捧げられた詩篇。わたしたちが、現在をよりよく、より深く生きるための、静かで美しくつよい珠玉の言葉が、ここにある。長田弘のロングセラー詩集『深呼吸の必要』『食卓一期一会』などに続き、ついに文庫化。
目次
渚を遠ざかってゆく人
こんな静かな夜
秘密
イツカ、向コウデ
三匹の死んだ猫
魂というものがあるなら
草稿のままの人生
老人と猫と本のために
小さな神
サルビアを焚く
箱の中の大事なもの
ノーウェア、ノーウェア
その人のように
あなたのような彼の肖像
わたし(たち)にとって大切なもの
あらゆるものを忘れてゆく
砂漠の夕べの祈り
砂漠の夜の祈り
夜の森の道
アメイジング・ツリー
著者等紹介
長田弘[オサダヒロシ]
1939‐2015年。福島市に生まれる。25歳のとき詩集『われら新鮮な旅人』でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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やすらぎ
173
語られることのない苦しみに耐えようと決めた夜。暁の喜びは絶え間ない急流にとけてゆく。未練を隠したいかのように蛇行して永遠に。苔むす石に花一片落ちてゆく。夕焼けの強雨を忘れたいかのように音もなく。朽ちていくように気づかれることのない静寂を、切なさと捉えられたのはいつからだろうか。考えてもきりがない。聴こえなくなってしまったから。苦しみに耐えてしまうと悲しみにも慣れてしまう。明日があるとも限らないのに、幸福のような眩しさを見つめている。記憶の片隅に雪一片落ちてゆく。忘れてゆく。私はここにいたのに。消えてゆく。2023/11/30
chantal(シャンタール)
80
きっとある程度の年齢にならないと、この詩集の素晴らしさは理解出来ないかもしれない。私は人生の半分なんかもうとっくに越えてるだろうけど、それでもまだまだ近しい人の死に触れて来た経験は少ないし、「死とは生きる事」の境地にも達する事は出来ていない。でも、長田さんの詩を読んでいると、その日を安らかに迎えるためにも、一生懸命生きなきゃいけないなあと思う。朝、一杯のコーヒーを飲んだ時のあの何気ない幸福。そんな幸福の積み重ねが人生なんだなあ。2022/06/17
HaruNuevo
24
昨年から詩を読むようになり、まだ数を読んだわけではないものの、あれこれ手にしてきた。 現時点で、今まで読んだ詩集の中で一番刺さるものがあった。 死を論じるわけではなく、逝った人々を偲ぶように言葉を紡ぎその先に僕たちはなぜ生きるのか、ともしびを灯してくれるような、そんな詩たち。 『わたし(たち)にとって大切なもの』、この詩に出会えたことはおそらく一生の宝物になるだろう。 常に手元に置いて、暇があれば開きたい、そう思わせる一冊だった。 2024/03/28
ぴの
14
詩を読んで涙が溢れたのは宮沢賢治以来(永訣の朝、無声慟哭、雨ニモマケズ)で、今は亡き長田弘さんの詩を全て読みつくしたいと思った。まず表題で敬遠される方も居るかもしれないが、とても入っていきやすく私にとってバイブルのような存在になってくれた。この全詩編には、死への恐怖ではなく、ただ仄かに嫋やかに「死の匂い」が漂っている。常に宮沢賢治詩集と重ねて枕元に置き、眠る前に時々開いて読んでは、涙で視界を潤わせている。解説は、偶然にも昔から大好きな川上弘美さん。秀逸。2023/05/16
マツユキ
14
親しい人ではなかったとしても、そこにいた人が、今、いないということ。自分もまた、そうやって去っていく事。悲しいのだけれど、穏やかで、満ち足りているような気もする。こうやって書いていると、どんどん、遠ざかっていくような…。また読もう。2022/05/25