内容説明
東京、午前一時。この街の人々は、自分たちが思っているよりはるかに、さまざまなところ、さまざまな場面で誰かとすれ違っている―映画会社で“調達屋”をしているミツキは、ある深夜、「果物のびわ」を午前九時までに探すよう頼まれた。今回もまた夜のタクシー“ブラックバード”の運転手松井に助けを求めたが…。それぞれが、やさしさ、淋しさ、記憶と夢を抱え、つながっていく。月に照らされた東京を舞台に、私たちは物語を生きる。幸福な長篇小説。滋味深く静かな温もりを灯す、12の美味しい物語。
著者等紹介
吉田篤弘[ヨシダアツヒロ]
1962年東京生まれ。小説を執筆するかたわら、クラフト・エヴィング商會名義による著作とデザインの仕事を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しんごろ
247
東京の夜を生き抜く人々達の連作短編集。とにかく人と人が繋がる。世間は狭いというぐらい繋がる。これが縁ということなのかな。そんな繋がりのある話を、吉田篤弘さんの心地よい文章が優しく包みこんでくれて、ページをめくる手が止まりませんでした。作中に登場する『車のいろは空のいろ』を話もかなり忘れてるし、再読したくなりますね。個人的にですが、読んでる最中、脳内でピチカートファイブの『東京は夜の七時』が勝手に流れてくる(笑)BGMはピチカートファイブで決まりだね。2019/11/24
kanegon69@凍結中
157
月舟町シリーズ以外で初めて読んだが、やはり吉田篤弘さんの文章は心地よい。深夜の東京、連作短編の形をとりながら深夜に仕事する人々のそれぞれの夜を描いていく。大都会東京の深夜、ふとした瞬間に異空間にいるような感覚、深夜だから月と星の下で浮かぶ想い、昼間とは全く違う雰囲気を、やはり素敵な詩的表現とともに滑らかに綴られている。それぞれの短編物語の登場人物がいつのまにか優しく折り重なっていき、心地よい長編小説になっている。なんでもない話なのに心地よさと深夜の情景がふんわりと心に浮かぶ。今夜も東京は夜を迎えますね。2020/06/13
KAZOO
145
「台所のラジオ」と同じような感じの12の連作短編集です。今回は深夜タクシーの運転手、映画の道具調達の女性が主に狂言回しのような感じで登場しています。話の筋はあってないような感じなのですが、読んでいてなにかほっとさせてくれるような気持がします。とくにピーナッツの殻を割るペンチには笑ってしまいました。2024/10/07
mukimi
123
忙しない年の瀬、着地しない思考が頭の中でぐるぐる回ってとりあえず人心地つきたい時、表紙とタイトルに惹かれて。そうか、私が求めていたのは、1足す1が3になるみたいな人と人の縁が生み出す化学反応のうきうきと喜び、そして、目が慣れるのに時間のかかるような暗闇と夜の青い空気の静寂だったのだ(目を慣らすほどの暗闇も、夜の冷たく凛とした空気も、久しく感じていないと気付く)。美味しそうな食事とお酒たちに心と体がとろけて温かくなる。筆者は初読みだが、生活を豊かにしてくれる宝物の様な世界観。とても良い出会いをした。2022/12/26
nico🐬波待ち中
115
"眠らない街"東京。真夜中の東京で、今夜も人と人とが緩やかに繋がっていく。そんな人と人との不思議な縁を感じずにはいられない連作短編集。寝静まった真夜中に、静かに繋がる人・人・人…。みんなが少しずつ繋がり、やがて大きな輪になっていく連鎖がとても心地よい。吉田さんが紡ぐ緩やかで優しい人の連鎖はいつも心穏やかにさせてくれる。今日も明日も明後日も、東京にいつもの夜がやって来る。独りでいる淋しさも、みんなといる心地よさにいつしか変わっていく。大人の夜の愉しみをのぞき見した気持ちになれた。2020/12/01