内容説明
それなりの時間を過ごしてくると、人生には妙なことが起きるものだ―。昔なじみのミルク・コーヒー、江戸の宵闇でいただくきつねうどん、思い出のビフテキ、静かな夜のお茶漬け。いつの間にか消えてしまったものと、変わらずそこにあるものとをつなぐ、美味しい記憶。台所のラジオから聴こえてくる声に耳を傾ける、十二人の物語。滋味深くやさしい温もりを灯す短篇集。
著者等紹介
吉田篤弘[ヨシダアツヒロ]
1962年東京生まれ。小説を執筆するかたわら、クラフト・エヴィング商會名義による著作とデザインの仕事を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しんごろ
191
タイトルのまんまの短編小説でいくらか連作になってます。まあ、台所にラジオがあるのは昭和を感じますね。こじゃれてはいませんが料理も出てきて、ちょっと食べたくなりますね。この雰囲気は神吉拓郎さんの小説を思い出しますね。とにかくさりげなく静か!読んだ後、時が経てば話は忘れてしまいそうなくらいさりげないです。そう、いうならば聞き流してるラジオのようでした。「紙カツと黒ソース」「さくらと海苔巻き」「マリオ・コーヒー年代記」が良かったです。BGMには鈴木祥子『RadioGenic』がいいかもf^_^;2017/10/23
KAZOO
124
吉田さんのラジオに聞こえてくる話からの連作短編集です。12の作品が収められていますが、それが少しづつ関連のあるような感じになっています。話としては筋のあるようなないような感じもしますが、読んでいてゆったりとした気持ちにさせてくれます。ここに出てくるミルク・コーヒーなどを飲んでみたくなります。2024/09/28
fwhd8325
114
子どもの頃から、いつもラジオの音が流れていた環境でしたので、今でも生活の中心はラジオを聴いています。ドラマなどでもラジオが家庭の中心だった時代のシーンを見ると何だかうれしくなります。生活の一部であるラジオに温かみであるとか優しさであるとか心に残るものを感じます。2021/08/21
へくとぱすかる
114
何気ないドラマでありながら、さりげなくクラフト・エヴィング商會的に、少し不思議な感覚で彩られる。「紙カツと黒ソース」から始まる、食堂や喫茶店の話が中心で、街の洋食屋のあの味と匂いを感じさせてくれて楽しい。静かで、そんなには「がんばらない」日常の中、歳月を経て、かつて行った店が、果たして今もあるかどうかという期待感が話を盛り上げてくれる。連作的にひとつの街・世界を感じさせてくれるのもうれしい。2019/01/01
ふじさん
83
初読みの作家。短編に登場する主人公は、ラジオから聴こえる女性の静かな語りかけに心癒され、前へと進む気持ち貰う。何気ない日常を過ごしていると不思議なことが起こる。「紙カツと黒ソース」の紙カツ、「マリオ・コーヒー年代記」の昔馴染みのミルク・コーヒー、江戸の宵闇で食べるきつねうどん、静かな夜に食べるお茶漬け等懐かしい美味しい記憶。あまり味わったことのない読後感。静かな語りによる優しい温もりに溢れた作品。2021/01/09