内容説明
子をなくして悲しむ親アザラシとそれを見ていた月の交流を綴った「月とあざらし」。仲よく暮らしていたふたりが、敵味方に分かれて戦うことになった「野ばら」。人間のやさしさを信じた人魚が人間界に産み落とした赤ん坊の運命を描いた「赤いろうそくと人魚」など、全二十三篇を収録。美しくて怖い、優しくて悲しい、心揺さぶる珠玉のアンソロジー。
著者等紹介
小川未明[オガワミメイ]
1882年、新潟県高田(現上越市)生まれ。早稲田大学英文科卒業。在学中に書いた小説「紅雲郷」が坪内逍遙に認められ、デビュー。卒業後、早稲田文学社に編集者として勤務しながら、多くの作品を発表する。1925年(大正14年)に早大童話会を立ち上げ、翌年(大正15年)、東京日日新聞に「今後を童話作家に」と題する所感を発表、童話に専念することを宣言。多くの童話集を出版し、「日本のアンデルセン」「日本児童文学の父」とも称されている。1961年、逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おにく
35
この本を読んで、沸き上がった気持ちをうまく言葉にできず、胸がきゅーっと締め付けられる想いでした。その後、エモーショナル(感情に訴えてくるものに遭遇したときの感情。感動した気持ち。)と、哀愁(寂しさや、もの悲しさで心が痛む様子。)という言葉に行き着き、ようやく気持ちが落ちつきました。お気に入りは"三つのかぎ"。「それぞれの場所で鍵を手に入れた青年たちが行き着いた先には、既に有形の宝はなく、青年たちは去っていった。しかし、歴史に詳しい学者だけは、悠久の時を越えた想いを手に入れ、幸せに浸る。といったお話です。 2021/06/25
陽子
34
「童話」といえば対象読者は子どもで「めでたしめでたし」で終わるイメージがあった。しかし、この童話集はそうではない。悲しい結末であったり、未完な感じの終わり方や、哀愁や得体の知れない怖さも秘めていて、大人向き童話ではないかと感じる。人間の愚かさや悲哀の断片。「童話」という形をとりながら、社会に対する批判も奥底に感じる作品も。自然破壊等を繰り返していく人間の活動を停止させる「眠り砂」を撒いて歩く男の話『眠い町』は、未来を予測していたのかな、と思わされた。『殿さまの茶碗』『小さな針の音』他、独特の余韻が残った。2021/01/06
Tadashi Tanohata
28
「童話文学」の地位を確立し、「児童文壇」の最高峰に君臨した小川未明。実は多くの作家が影響を受けている。童話集とあるが、大人の心に刺さる残酷な内容に近未来への警鐘が響く。優しい文体に油断することなかれ。冒頭「この人、間違いなくいい人だ」と思われ人が、ゆっくりとブレていく、ゆっくりと。結末をどう読むかは、あなた次第だ。2018/09/29
ヒラP@ehon.gohon
27
絵本や紙芝居の様々な作品で、不思議に思っていた作家の童話集を読んで、さらに不思議さを深めました。シニカルであったり、叙情的だったり、空想的だったり現実的だったり、思想的だったり精神的だったり、ドライだったり情緒的だったり、とにかく多面的な小川未明の作品に著者の幅の広さを痛感しました。解説で、その謎が少しとけて良かったです。出来れば全作品を絵本で読みたいとも思いました。様々な絵が浮かんできます。2020/12/15
あたびー
26
#日本怪奇幻想読者クラブ 未明の童話を全集で読んだことがない。一体明るく楽しい話も書いたのだろうか?現在出回っている作品集を読むと「お伽話」を「童話文学」に高めた日本児童文学界の祖の一であると言われても、子どもが楽しめるものの様にはどうしても思えない。全体を染める暗く哀しい調子。「明くる日から、太郎はまた熱が出ました。そして二、三日目に七つでなくなりました」と唐突に終わる物語などを読むときっと子供は胸の中を涙と恐れでいっぱいにしてしまうことだろう。だからこうして大人になってからこわごわ頁を繰るのである2020/05/26