内容説明
友人・吉元の家探しを手伝いはじめた“わたし”。吉元が「これぞ理想」とする木造アパートはあいにく満室。住人を一人追い出そうと考えた二人だが、六人の住人たちは、知れば知るほどとらえどころのない不思議な人間たちばかり。彼らの動向を探るうち、やがて“わたし”も吉元も、影のようにうろつきはじめている自分に気づき…。奇怪な人間模様を通じて、人々の「居場所」はどこにあるかを描く長篇。
著者等紹介
角田光代[カクタミツヨ]
1967年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。90年、「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。96年、『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、98年『ぼくはきみのおにいさん』で坪田譲治文学賞、99年、2000年『キッドナップ・ツアー』で産経児童出版文化賞フジテレビ賞、路傍の石文学賞をそれぞれ受賞
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
aoringo
58
ボロアパートの菊葉荘に住みたいという元恋人の引っ越し願望を叶えるためにあれこれ画策する主人公の典子。住人の一人と関係をもったり、下着泥棒をしたり、ちょっとやりすぎな行動にでる。典子だけでなく出てくる人みんなちょっとずつおかしい。なぜこのアパートこだわるのか分からなくてなかなか感情移入できなかったけど、やはり自分の居場所が欲しいという自分探しのひとつなのかなあ。モヤモヤが残る・・2018/08/05
NADIA
43
うーん。薄いから借り出したのだが、どうも角田さんの作品とは今イチ相性が良くないらしい。「菊葉荘に住みたい吉元(主人公の彼氏?)の指示を受け、菊葉荘の住人をだれか追い出すために動き出すわたし」という設定はなかなか興味を惹かれるし、そのために住人の一人と同じ大学生と身分を偽り、その学生と半同棲のような形で内部を探るところは面白いが、この「わたし」って一体どういうつもりなんだろう。どうも独特のぬるりとした雰囲気は少々苦手だ。そして、次に控えているのも薄いから一緒に借り出した角田作品である。早く読み終えよう。2021/05/25
るい
43
ここにいるはず、時を積み重ね生きてきたはずの自分の存在すらぐらつき危うくなる瞬間がある。心と体のバランスが歪んだとき、夢と現実の境目も曖昧になる。でもそんなときは流されてみればいい。 衣食住とは良く言ったもので心地よさと安心感は似ているようで全く別物。持ち物はなるべく少なく、シンプルに生きていきたいと常に思っているわたしは「ここではないどこか」へのハードルは低めなのかなと思っていたけれど、手放したくない大切な場所や物は少ないながら確かにある。この本は優しくて今のわたしにちょうどハマってホッとした。2020/08/05
佐島楓
35
忍び寄ってきてそれが普通になってしまう静かなシュールさ。一本曲がる道を間違えただけで迷い込んでしまう別の世界。別世界に見えてもそれはあくまで日常の延長。一瞬そんな空間にトリップした気分になった。2014/10/29
よしみん
33
失業中に友人の引越先探しを手伝い、友人が気に入った菊葉荘。空室がないなら、住人を追い出せばいいという友人の為に菊葉荘の住人である大学生の家で半同居を始める。描写は生々しいが、生きている気がしない。ふわふわと落ちる居場所を探している萎んだ風船のようだ。菊葉荘の住人たちも、決して好ましい人ばかりじゃない。なぜそこに住みたいのか理解できず、モヤモヤが残る。幽霊たちの生き方、この空気感がこの作品の全てなんだろう。2013/05/18