内容説明
奄美諸島徳之島出身の東貞吉は、琉球警察名護警察署に配属になり、米軍現金輸送車強奪事件を解決する手柄を立て、公安担当になる。沖縄刑務所暴動で脱獄した人民党の末端、島袋令秀に接近し、自分の作業員(スパイ)に育てることに―。令秀が人民党の瀬長亀次郎に心酔していくなか、貞吉は公安としての職務を全うするために、敬愛する瀬長を裏切ることができるのか。矛盾と相克に満ちた沖縄で、主人公は自らの道を歩んでいく。
著者等紹介
伊東潤[イトウジュン]
1960年、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒業。『黒南風の海―加藤清正「文禄・慶長の役」異聞』(PHP研究所)で「第1回本屋が選ぶ時代小説大賞」を、『国を蹴った男』(講談社)で「第34回吉川英治文学新人賞」を、『巨鯨の海』(光文社)で「第4回山田風太郎賞」と「第1回高校生直木賞」を、『峠越え』(講談社)で「第20回中山義秀文学賞」を、『義烈千秋 天狗党西へ』(新潮社)で「第2回歴史時代作家クラブ賞(作品賞)」を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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旅するランナー
251
琉球警察公安担当東貞吉を主人公に、戦後沖縄が描かれます。当然、瀬長亀次郎による活動との絡みがメインとなります。米軍の犬となるのか、沖縄のために立ち上がるのか、そんな矛盾と葛藤が切々と熱く描写されます。ウチナンチュによるシマンチュ差別、米軍による非道など、沖縄の基地問題の根深さを思い知らされます。警察小説としても面白く、オススメできる一冊です。2022/02/11
starbro
224
伊東 潤は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。 本書は、琉球公安警察ハードボイルド冒険小説の佳作でした。しかし1950年代の沖縄は、想像を絶する程、混沌とした凄い状態だったんでしょうね。本土と沖縄同様、沖縄本島と離島との差別の構造も根強く残っている気がします。 https://nordot.app/807196962093907968?c=6009968455881370572021/09/06
とん大西
137
【とりあえず1000冊です】琉球警察…ハードでボイルドでした。戦後のカオス渦巻く沖縄で獅子奮迅の活躍をみせた若き公安・東貞吉の矜持と葛藤。米軍傀儡の琉球政府の琉球警察。全ては沖縄の治安維持のため。が、目にし耳に聞こえ肌で感じる米軍のあまりに非道なふるまい。自身が、同胞がムシケラ以下の扱いを受ける日常。己れは警察か米軍の犬かはたして沖縄県人か。哀しまなくていいのか、怒らずに許されるのか。揺れ動くナショナリズムとザワつく世論。伊東さんらしさ全開のザ・骨太。熱い熱い一気読みとなりました。2021/08/09
あすなろ
121
流石伊東潤氏と角川春樹事務所の作品と一気読みを抑える事必死だった作品。この作品は、戦後沖縄史でも米軍・警察・政府・政治思想とその全てを内包しているのである。それをここまで良質なエンターテイメントとさせ、量が足りないとも思わせないのは先述の伊東氏と春樹事務所の膂力なのであろう。そして、瀬長亀治郎氏の登場とその人ととなり。知らぬ事も描き込まれている。エンターテイメント性は主人公にて育まれ、ヒロイン迄書き添えられる。以上、どの面からの興味からまたはエンターテイメント面だけでもこの作品は手に取って間違いないと思う2022/02/20
パトラッシュ
112
真藤順丈『宝島』がアメリカの植民地だった沖縄を反体制派の戦果アギヤーの視点から描いたのに対し、本書はアメリカの支配に協力した警察官を通じて見る。沖縄では差別される奄美出身の東貞吉は生きるため琉球警察に入り、スパイを作って左翼運動の情報を探るなど模範的な公安警察官だった。しかし「沖縄主義者」瀬長亀次郎に接して考えが変わっていき、警察を裏切り瀬長暗殺阻止に動く。その臨場感あるプロセスは圧倒的だが、本土復帰後の瀬長は日本共産党代議士になったので、貞吉の友人の共産党員朝英の動きは瀬長と共産党の秘密連絡網に思えた。2021/08/24