内容説明
ノーベル文学賞候補として何度も名前が挙がった日本の近・現代文学を代表する文学者・安部公房。最初期の作品“真善美社版”『終りし道の標べに』から最晩年の作品『さまざまな父』まで、徹底した読み込みにより、その独創的な作品世界の成り立ちと意味を解明する。
目次
第1部 “真善美社版”『終りし道の標べに』の位相(“真善美社版”『終りし道の標べに』「第一のノート」におけるハイデッガー;“真善美社版”『終りし道の標べに』「第二のノート」と“放蕩息子”の物語(リルケ)
“真善美社版”『終りし道の標べに』と神をめぐる思索)
第2部 変形譚の世界(『デンドロカカリヤ』論―「植物病」の解明を中心に;『赤い繭』論―リルケとの訣別;『S.カルマ氏の犯罪』論―作家誕生の物語;安部公房とシャミッソー;比喩と変形)
第3部 中・後期の文学世界(『砂の女』論―失踪者誕生の物語;『燃えつきた地図』における曖昧さの生成;安部公房作品における不整合;『箱男』論(一)―「箱男」という設定から
『箱男』論(二)―その構造について
“前衛”の衰弱―『さまざまな父』を読む)
著者等紹介
田中裕之[タナカヒロユキ]
1964年3月18日、島根県益田市に生まれる。広島大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得退学。現在、梅花女子大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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mstr_kk
8
『終りし道の標べに』論において、「存在象徴」をハイデガーの「存在者」に当たるものだとするところなど、初歩的かつ絶望的な誤読です。正直、この論者には安部がロクに読めていないのではないか、と思わざるをえません。思想関係や、抽象的な考察に弱いようで、論に踏み込みが足りません。だから結局、何も読み取れないまま、穏当なことだけを述べて終わるわけで、それならば論じる意味などないのではないでしょうか。正直なところ、いきどおろしい一冊です。こういう、明らかに間違ったものが「研究」としてまかり通るのはなぜなのでしょうか。2013/05/10
ホッタタカシ
1
“愚直”と思えるほどに精緻にテキストを読み込み、先行研究へも誠実かつ批判的に向き合った、地味なれど滋味豊かな論考集。圧巻は最初の長編『終りし道の標べに』論で、安部がいかにハイデッガー、リルケ、ニーチェ、ヤスパース、キェルケゴールを参照したかの解読はとにかく勉強になる。『箱男』の「箱」イメージ論とメタフィクション構造の解読を論じた二部構造の作品論も読み応えあり。とにかく細かく、華やケレンに乏しいのでマニアでないと通読できないかもしれないが、マニアであればあるほど楽しめる。2012/08/01
じめる
0
安部公房という作家に寄り添うだけでなく、テキストをじっくりと読んだ箱男論に感動。そしてただのファンでなく論理的に安部公房の面白さを語りたいと言いながら最後の作品になった『さまざまな父』には論理的に面白く無いと言う姿勢。安部公房の作品の面白さもそうだけど、筆者の小説作品への態度がとてもよかった。2012/10/02
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