内容説明
原始社会において宗教はなぜ不可欠だったのか、信仰の本能はいかにして人間の本性に組み込まれたのか―生物学、社会科学、宗教史を架橋する壮大な物語。
目次
宗教の本質
道徳的本能
宗教行動の進化
音楽、舞踏、トランス
太古の宗教
宗教の変容
宗教の樹
道徳、信頼、取引
宗教の生態学
宗教と戦闘
宗教と国家
宗教の未来
著者等紹介
ウェイド,ニコラス[ウェイド,ニコラス][Wade,Nicholas]
イギリス生まれの科学ジャーナリスト。ケンブリッジ大学キングスカレッジ卒業。二大科学誌『ネイチャー』『サイエンス』の科学記者を経て、『ニューヨークタイムズ』紙の編集委員となり、現在は同紙の人気科学欄「サイエンスタイムズ」に寄稿
依田卓巳[ヨダタクミ]
翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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nobi
83
宗教という人々を結束させる力が生存競争で勝ち残る有利な条件となり、その性向が数千年というスパンの中で遺伝的に強化されてきた、という意表を突く論の展開。そうした宗教の遺伝的特性をも語りうるレベルに達してきた生物学の成果だけでなく、最近の歴史学、聖書学、文化人類学等300以上の文献も引用し体系づけたクリアな論述。宗教に留まらない。こうした視座を持つことで、現代に至る歴史の中での制度化と熱狂、獣性と天使性といった相反する性質の現れも不思議でなくなり“現代人は敗者ではなく勝者の子孫である”という言明も腑に落ちる。2018/05/26
テツ
22
古今東西あらゆる文明が信仰を発明し宗教を生み出してきたのなら現代に生きる我々には信仰を好む傾向が遺伝しているのではないか的なお話。前近代的な社会においてバラバラの人々を束ねて方向性を示すためには素晴らしい発明だったとは思うけれど(ついでにある程度の社会性や道徳心も学ばせられるし)これからの社会では信仰のあり方も変わっていかなければならないのかなと思いました。もう人々を群体として動かすことは難しい。神や信仰ってパーソナルに生み出していく時代な気がします。宗教という発明について考えさせられた良い本でした。2018/12/15
白義
14
うーん、著者は科学ジャーナリストだが、これはひょっとしたら最高の宗教・宗教学の啓蒙書なんじゃないだろうか。根幹は進化論的アプローチなんだけど、自然科学と社会科学の最良の総合の試みとも読める。宗教がここまで発展したのには進化論的な合理性がある、という立場から原始宗教からキリスト教やイスラム教までその成り立ちと機能を解き明かし、宗教への偏見や批判的な言説にも説得力のある応答をする、啓蒙書のお手本みたいな本。科学的アプローチと、デュルケムや文化人類学の知見が有機的に絡み合う様は新しい学問のあり方をも感じる2011/12/31
CCC
13
宗教が人類の生存ゲームにおいてどのような役割を果たしたかという視点は面白かった。ただ推測的な仮説が多く、宗教や神といった言葉の使い方もふわっとしてる感じがした。神や宗教という言葉にこだわるなら儒教はどうしたという話になるし、その機能を重んじるなら共産主義は宗教と遜色ないように思える。そもそも話の根幹になっている宗教が結束に役立っているという主張も、腰を入れて無宗教的な社会と比較して考えないと妥当性がわからない。そのまま飲み込むのは難しいと感じた。2024/03/20
haruka
10
宗教を生みだす本能。それは信仰心が人類にとって有利で、遺伝子的な勝者だったからではないか?人間の何らかの性質の副産物ではなく。という著者の主張が、類人猿・狩猟採集時代・古代の長スパンで考察される。面白かった。狩猟時代の戦争・戦死者は現代と比較にならないほど多く、音楽や舞踏での結束や利他主義が重視された。血塗られた悲惨な時代を、神と共に あるいは神を利用して人類は生き抜いてきた。宗教って生贄や服装や儀礼など無意味なものが多いなと思っていたら、それは内部でイイとこ取りするずるい人間を排除するためのものだった。2021/10/28