出版社内容情報
思春期精神医学の草分けによる母親への連続講義集。子どものこころの発達,問題行動の原因,夫婦関係を良くするコツもレクチャー。〈解説〉より抜粋
この本の講義は、グループでの親ガイダンスの前に、親への子育てに関する心理教育をするために、講義形式で行われたものです。本書の中で先生は、親の育て方が悪かったなどの罪悪感や不安、絶望感にとらわれるのではなく、子どものこころに何が起きているのかを理解する方向へと、軸足を移していくことを勧めています。
思春期青年期のこころの発達を理解する上で、本書にある「愛着(対象との強い絆)」、「分離(対象との分離や離別)」と「個体化(自分自身を作ること)」の三つをキーワードとして考えることができます。人のこころの発達は、生後一年間に、母親対象との間で強い絆を作ると同時に、その母親と自分は別個の存在であることに少しずつ気づき、自分という意識を持つようになります。この三つの側面は、その後のこころの発達においても続き、一生を通じて繰り返し現れます。思春期青年期における親への自己主張や反抗が大人を悩ませますが、これは本書にあるように、象徴的に親を「超えること」や「心理的親殺し」という分離の側面を現しています。また、仲間や友達関係を作り、愛情対象を選び出すことは、愛着形成の側面を現しています。さらに「自我理想を現実に沿って置き換える」については、たとえば野球選手やサッカー選手になりたい、アイドルになりたいという、大きいけれど画一的な夢から、現実的な目標へと変化していくことであり、それは個の確立を現しています。
また、この講義で先生は、思春期青年期を中学三年から高校一年あたりを境に、大きく二つに分けて考えています。そして、思春期前半については、二次性徴にともなう体の変化が生じ、それをどのように受け入れていくかという課題があること、後半については、子ども時代や親対象にどのように別れを告げ、愛情対象の選択や職業選択ができる大人になっていくのかについて述べています。
思春期青年期では、これまで述べたような発達の課題があり、子どもは大きく揺れ続けます。そして、先生の講義では、両親が子どもに起きていることをどのように理解するか、揺れる子どもに対して、どのように接したらよいかについて具体的な示唆を与え、子どもが困難な時期を乗り越え、先に進んでいく力を信じるように励ましています。その際に、夫婦の間に何か問題があったとしても、子どもへの対応については、両親が協力して、一枚岩になって対処することの重要性を繰り返し述べています。さらに、第2章では、困難な時期を夫婦が協力して乗り越えることで、夫婦間の親密さが戻ることや、夫婦仲を良くするためのヒントまで話されています。また、第3章では、こころの発達を一時的に止めてしまうこと(不登校)、攻撃性の問題(家庭内暴力)、生きる方向ではなく死ぬ方向に考え出す(希死念慮や自殺企図)や性的逸脱の問題(性非行)について述べています。
第1章 現代の子育て
第?講 現代社会と家庭――重くなっている親の養育責任
「長いものには巻かれろ」から「個の確立」を必要とする社会へ
1 昔と現代の社会
2 昔と今の若者に求められる「一人前の条件」
第?講 現代の中学生・高校生の悩み
1 中学生の悩み――自分について
2 中学生の悩み――親子関係・友人関係について
3 高校生の悩み――自分について
4 高校生の悩み――親子関係・友人関係
5 セックスについて
第?講 思春期の発達と親子関係――親に望まれること
1 現代社会の求める大人像と猶予期間(精神社会的モラトリアム)
2 同性の親子関係
3 異性の親子関係
4 親としての夫・妻に望まれる連携
第?講 親が思春期の子どもに伝えるべきこと
1 親が子どもに伝えるべきことの今昔
2 現代の子どもたちはどういう若者になる必要があるのか
3 職業選択に備えて
4 対象選択に備えて
5 「何をどのように伝えるか」両親が話し合い、合意しておく
第2章 子どもの発達
第?講 親子ゲンカ――子どもはそれをどう乗り越えるか
1 子どもは一番最後に親に当たる
2 思春期の発達を保護・刺激する環境に問題はないか
3 親の自我理想の子どもへの押し付け
4 親の秘密・家族の秘密(家族神話)
5 子どもはこれらをいかに乗り越えるのか
6 親が親としての機能を果たすこと
第?講 早すぎる親との別れ
1 胎児・乳幼児の母親への愛着
2 分離・個体化(一歳半から三歳+α)
3 思春期は第二の個体化の時期である
4 「早すぎる親との別れ」とは
5 親としての心得
第?講 親の夫婦関係と子どもの発達――少しだけ夫婦仲をよくするために
1 恋愛・結婚の動機
2 無意識の動機は何から成り立っているのか?
3 結婚後はじめての夫婦ゲンカ
4 子どもが夫婦ゲンカに巻き込まれると
5 夫婦仲を少し良くする方法
第3章 問題行動への対処
第?講 不登校への対処
1 不登校(登校拒否)とは何か?
2 本人は不安の詳細について、理解しているか?
3 二つの対処方法
4 不安に立ち向かわせ、たくましく成長する方向への対処
第?講 子どもの家庭内暴力への対処
1 どのような家庭内暴力にも「No」を明示する
2 子どもが暴力に至る過程を観察する
3 親の暴力への参加を同定して、自己制御する
4 被虐的挑発
5 運動による気分の調整
第?講 子どもの自傷行為・希死念慮・自殺
1 攻撃性の病理
2 自傷行為・自殺未遂・希死念慮とは
3 親の取るべき対応
4 専門家の原則的な対応
第?講 思春期の性と性非行
1 思春期と性的な育ち
2 子どもが性的な非行に走る理由
解 説
皆川邦直[ミナガワクニナオ]
著・文・その他
生田憲正[イクタノリマサ]
編集
柴田 恵理子[シバタエリコ]
編集
守屋 直樹[モリヤナオキ]
編集
内容説明
思春期の子どもを持つ親にとって、子どもをどのように育てたらいいのか、子どもとどのように接したらいいのかは、とても難しいものです。そうした難しさに直面したときに、専門家からの助言は、大変貴重なものになります。本書の著者、皆川邦直先生は、わが国の思春期青年期精神医学のエキスパートとして知られていました。本書は、先生が、思春期の患者さんを抱える親御さんたちを対象に行った一連の講義を書籍化したものです。思春期の子どもを育てる親御さん、精神医学や心理学の専門家、さらには中学校や高校の教育者のかたがたにも役に立つ、金言満載の一冊です。
目次
第1章 現代の子育て(現代社会と家庭―重くなっている親の養育責任「長いものには巻かれろ」から「個の確立」を必要とする社会へ;現代の中学生・高校生の悩み;思春期の発達と親子関係―親に望まれること;親が思春期の子どもに伝えるべきこと)
第2章 子どもの発達(親子ゲンカ―子どもはそれをどう乗り越えるか;早すぎる親との別れ;親の夫婦関係と子どもの発達―少しだけ夫婦仲をよくするために)
第3章 問題行動への対処(不登校への対処;子どもの家庭内暴力への対処;子どもの自傷行為・希死念慮・自殺;思春期の性と性非行)
著者等紹介
生田憲正[イクタノリマサ]
1981年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神神経科助手、ハーバード大学マクリーン病院臨床研究員、国立大蔵病院精神科医長、国立成育医療研究センター思春期メンタルヘルス科医長などを経て、2015年より現職。現職:クリニックおぐら副院長、医学博士
柴田恵理子[シバタエリコ]
1985年藤田保健衛生大学医学部卒業。藤田保健衛生大学病院精神神経科、東京女子医科大学病院小児科、藤田保健衛生大学精神科思春期外来担当、医療法人静心会桶狭間病院、国立小児病院精神科研究員、高田馬場新澤ビルクリニック院長を経て、2007年より現職。現職:医療法人明心会ルーセントジェイズクリニック院長
守屋直樹[モリヤナオキ]
1979年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学精神神経科助手、埼玉社会保険病院(現・埼玉メディカルセンター)神経科部長、昭和大学藤が丘病院精神神経科助教授などを経て、2006年より現職。現職:渋谷もりやクリニック院長、医学博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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Akihiro Nishio