内容説明
女性が外で働くことが、まだ、まれな時代、14歳から銀行で働くかたわら、詩作を続け、定年まで勤めあげた女流詩人、石垣りん。「生きること」の本質を、媚びることなく追求した、その詩の世界を味わってみましょう。
目次
私の前にある鍋とお釜と燃える火と
手
用意
子供
表札
くらし
崖
ちいさい庭
童謡
朝のパン〔ほか〕
著者等紹介
萩原昌好[ハギワラマサヨシ]
1939年神奈川県に生まれる。東京教育大学、同大学院を卒業後、埼玉大学教授、十文字女子大学教授を経て、現在に至る(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まーちゃん
38
難解な言葉や言い回しは出てこない。派手で大げさな表現もない。ひたすら平易でありふれた日常を表現しながら、なんという存在感。どうしてこんなずっしりした重みや痛みを胸に残すことができるのか。古いものの死を踏み越えて新しい生は育くまれる、命は精神的にも肉体的にも決して美しく晴れがましく希望に満ちた面だけでなく、生きるため避けようのない汚れにまみれ、残酷な面も持ち合わせている。それでもその混沌をりんさんはそっくりそのまま温かな眼差しで見つめている。徒に否定することなく、嘆くこともなく。なんて強いのだろう。(→続)2013/11/24
とよぽん
37
1920年大正9年生まれ、昭和の時代を丸々生き抜いた石垣りんさん。日常生活のさまざまな場面・瞬間を見せながら、鋭い刀身を自分や社会に突きつけて哀切と叱咤激励を贈ってくれる。「崖」「略歴」「空をかついで」「太陽の光を提灯にして」そして「虹」が特に。2019/12/27
annzuhime
25
図書館本。高校生の頃に好んで読んだ詩人の一人。女性であること、生きること、死ぬこと。日常茶飯なことを分かりやすい言葉で綴られるのですんなり読めるが、現実を残酷に伝えている。まっすぐ、自分らしく生きていきたいと思わせてくれる。やはり今読んでも好きだと思える詩人。この本が2018年の最初の1冊で良かった。2018/01/03
Nonberg
17
すばらしいのひとことにつきます。「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」から「虹」まで22詩篇、どれも深い味わいがあり、生きた言葉が伝わってきます。生前に出版された4詩集からほぼ時代順に50年代、60年代、70年代、80年代の作品がならび、「虹」まできて、逆順に「私の前に…」まで遡って読み返してみると、風景は鮮明さを増します。入門書とあって、各作品に編者・萩原昌好氏の解説が付されています。こちらも作品との距離感が絶妙、押し付けがなく、まるで作者・編者・読者の三者で静かに深く輪読しているような錯覚を覚えました。2021/04/19
まさむ♪ね
14
14歳で銀行に就職、定年まで勤め上げ家族を養い家事もこなしながら、素晴らしい詩を書き続けてきた石垣りんは相当強い。自らを獣とうたう「くらし」という詩がある。メシを、肉を、野菜を、空気を、光を、そして親兄弟、心も金も、食わずには生きてゆけない。気がつけば台所には父のはらわたまでもが散らばっていた。そして四十の日暮れ、詩人の目にはじめてあふれる「獣の涙」。しばらく時が止まったかのように身動き一つできませんでした。今まで目を背け続けていた真実を見事突きつけられました。「生きる」ということはこういうことなんだ。2013/10/25