内容説明
不幸のどん底にあった主人公のマルティンは巡礼中の老人の言葉に、生きる気力をとりもどす。
著者等紹介
北御門二郎[キタミカドジロウ]
1913年、熊本県生まれ。東京帝国大学(現東京大学)英文科中退。1938年、トルストイから学んだ「絶対的非暴力」を貫き、兵役を拒否。以後、「トルストイも言うように農耕が一番罪がない」と、熊本県水上村湯山にこもり、農業を営むかたわら、トルストイの研究・翻訳にその人生を捧げた。1979年、「トルストイ3部作『アンナ・カレーニナ』『戦争と平和』『復活』」(東海大学出版会)の翻訳により、第16回日本翻訳文化賞を受賞。2004年、死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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mocha
95
聖書を噛み砕いて、民衆のためのやさしい物語にしたトルストイ。仏教や論語にも精通していたらしい。愛のある行ないがどんな風に人を救うかを描いた表題作と、その裏返しの、争いがどれほど人も自分も傷つけるかという「火の不始末は大火の元」。後者に出てくるおじいさんの教えにはうなずける言葉がたくさんあった。〈人の悪いところはよく見えるが、自分の悪いところは背中にまわって見えない〉ほんとだね。2015/12/11
Miyoshi Hirotaka
31
女房に先立たれ、子供も夭逝、自らの死すら願う靴屋が聖書により立ち直り、神の愛と一体となる物語。わが国の「笠地蔵」に似た構成と展開。これが一神教の国で革新的なのは神を人格化せず、感覚や経験を超えた真実としているから。「戦争に勝ったが、文化では負けた」という程のロシア文学ブームが日露戦争後に起きた。心酔する人が次々と現れた。昭和女子大学は「トルストイが建てたような愛の学校を」という理念を今に引継ぐ。神は人間の浅知恵では測り知れない生命の尊さや愛であるという思想は、敵意や文化風習を超え、わが国の文壇を席巻した。2017/09/05
寧々子
14
児童書なのでとても読みやすく、物語の本質がストレートに伝わってきました! 表題作も良かったけれど、「火の不始末は大火のもと」もとても良かった。 たかが卵1つが発端で際限なくいがみ合う隣人同士の物語です。 片方の家族のひとり、年老いた病身の老人だけはキリストの教えを例に例えながら、諍いの愚かさを解き仲直りを促すのですが、その言葉が感慨深かった! 特に―他人のまちがいは目の前に見えても、自分のまちがいは背中の後ろにかくれているのだ。―という台詞がいちばん心に響きました。 2015/12/30
カタコッタ
13
愛、この一言を私は直ぐに語れない。民話として愛を語るトルストイのすばらしさ。トルストイの散歩道、愛と感動に満ちた思い出深いシリーズでした。2019/04/18
つき
11
宗教色が強いけれどそれ以上に、人間として周りの人にどう接していけばよいか、訴えかけてくる。 自分さえよければそれでいいのか。やられたら倍にしてやり返せばそれでいいのか。2つの短編を通して考えられる。中学年からの子どもにもぜひ、読んでもらいらい。 表題作『愛あるところに神あり』と『火の不始末は大火のもと』を収録。2017/12/19