内容説明
十六の夏に出会ったイギョンとスイ。はじまりは小さなアクシデントからだった。ふたりで過ごす時間のすべてが幸せだった。でも、そう言葉にすると上辺だけ取り繕った嘘のように…(「あの夏」)。誰も傷つけたりしないと信じていた。苦痛を与える人になりたくなかった。…だけど、あの頃の私は、まだ何も分かっていなかった。2018年“小説家50人が選ぶ“今年の小説””に選出、第51回韓国日報文学賞受賞作。
著者等紹介
チェウニョン[チェウニョン]
1984年、京畿道光明生まれ。2013年、『作家世界』新人賞に入選して作家活動を始める。第5回若い作家賞、第8回若い作家賞、第8回ホ・ギュン文学作家賞、第24回キム・ジュンソン文学賞、『わたしに無害なひと』で第51回韓国日報文学賞を受賞
古川綾子[フルカワアヤコ]
神田外語大学韓国語学科卒業。延世大学教育大学院韓国語教育科修了。第10回韓国文学翻訳院新人賞受賞。神田外語大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アマニョッキ
67
心にあるヒダを丁寧に丁寧にめくって、そこにあるざらりとした澱やとれないシミを「うん、ありますね」と認めてくれるような作品。カルテットでいうところの、家森くんと巻さんが言う「レモンありますね」のように。見えているもの、聞いていること、感じている思い、同じ時間を共有していても何一つ一緒にはならない。人を傷つけず、傷つかずに生きていくことなんてできないかもしれないけれど、この感情だけは忘れないでいたい。とにかく傑作としか思えないので、こんな陳腐なレビューは無視して本当に読んでいただきたいです、お願いします!2020/05/11
at-sushi@進め進め魂ごと
61
主に韓国の若い世代の女性達を主人公にした、派手な展開もない日常を描く短篇集ながら、若者特有のセンシティブさやままならなさをリアルな解像度で描き、誰もが抱える蹉跌や後悔という古傷を鋭い一文で深々と抉ってくる。ネット掲示板で知り合った3人を描く「砂の家」、ブラジル人プータローと韓国人の元看護師の邂逅を描いた「アーチデイにて」が特に好み。 初読み作家さんだけど、そのうちノーベル文学賞とか獲ってしまいそうな器を感じる。2025/04/11
ちゅんさん
59
すごくよかった。何かを言ってしまって取り返しがつかない事になるのは往々にしてあるが、実はその逆も同じくらい多い、と思う。でもそれはしなかった(言えなかった)事の結果なので気づかない人もいるだろう。この作品はそんな“しなかった”事により人を傷つけてしまったり失ったりする話が多い。著者はそんな心の機微に気づける繊細な感覚の持ち主だ。ひとはひとを傷つけずには生きられない“無害なひと”になんてなり得ない、それを著者は知っている。だからその眼差しは優しい2020/08/02
そら
55
韓国と言う違う国の文化や悪い慣習が反映された小説だった。若い作家の感性で、人との関係の難しさや男尊女卑、マイノリティに対しての差別的な問題など、躍動感と瑞々しさを持って描かれていたと思う。だが、韓国への知識や理解が少ない中での読書は理解しづらく、感情が入り込めない面もあった。生きづらさを感じる日本の若い世代からの共感は大きいのかなとも感じた。2021/05/09
ヒデミン@もも
55
すごく静かな物語なのに問いかけるものを感じる。私たちは直接会えないけど、こうやって本を通して出会えた。文化は違っても歴史の中ですれ違っても、同じ言葉を使わなくても、理解し合える。ん、理解まではいかなくてもリスペクトはできる。2021/03/21