内容説明
暗い深みへと惹かれていくダイビング、「ゴミ」捨て場漁りの愉しみ、女の足の小指を切る夢、幼い頃の小さな、つぐなうことのできない「失敗」…。『臣女』『ボラード病』の芥川賞作家が、何気ない日常の奥にひそむ「世界のありのまま」をまっすぐにみつめる。人間への尽きない興味と優しさに溢れたエッセイ集。
目次
「光」
「傷」
「水」
「ゴミ」
「文字」
「色」
「肌」
「夢」
「穴」
「自然」〔ほか〕
著者等紹介
吉村萬壱[ヨシムラマンイチ]
1961年、愛媛県松山市生まれ、大阪で育つ。京都教育大学卒業後、東京、大阪の高校、支援学校教諭を務める。1997年「国営巨大浴場の午後」で第1回京都大学新聞社新人文学賞受賞。2001年「クチュクチュバーン」で第92回文學界新人賞を受賞しデビュー。2003年「ハリガネムシ」で第129回芥川賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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あじ
45
作家吉村萬壱の思慮深く硬質なエッセイ。思考回路の断面図を細かに描きながら、水脈に流れ着く経過が良い。過去に支援学級の教員として携わっていた話は他著でも触れていたが、珍妙な作家が彼らとどのように相対していたのか興味がある。小説なりエッセイなりで、是非とも昇華させて欲しい。2017/11/03
おにぎりの具が鮑でゴメンナサイ
40
だれもこない。スマホをずっと見ていた。約束したんだけど、どうしたんだろう。行ったらだめって言われたのかな。ごめんね。父ちゃんなのに、父ちゃんじゃないから。ビールを飲んだ。しこたま飲んだ。薬はもう飲まないから、ビールを飲んだ。明日は何を、して生きていたらいいんだろう。涙が出ない。出たら楽なのに。なにがだめだったんだろう。いや全部だめなんだけど。たくさん迷惑をかけた。取り返しがつかないほどに。生きていて申し訳ない。でも、死にかたがまだわからない。ごめんなさい。ごめんなさい。鮑のつまらない独り言。岩の隙間で。2017/10/21
グラスホッパー
8
小説作品とは異なる普通の雰囲気。シンプルな文章と内容がよかった。年をとりましたら、父上のように諦念の境地になり、機嫌よく笑って生きたい。2022/04/20
ぶうたん
8
エッセイ集で、癖のある小説から想像するようなものではなく、割と生真面目で真っ当なのが意外。結構含蓄はあるのだが、普通すぎて小説から期待するような面白味からは遠いので、あまり記憶には残らない。もっとも著者も記憶に残して欲しいとは思っていないだろうが。2017/12/09
法水
7
『生きていくうえで、かけがえのないこと』以降に亜紀書房ウェブマガジン「あき地」に連載されたエッセイを収録。前作が動詞をテーマにしていたのに対し、今回は「光」「傷」「水」「ゴミ」「文字」「色」…と名詞がテーマになっている。芥川賞授賞式の際、古井由吉さんからエッセイも手を抜かないようにと言われた著者が、それぞれのテーマに対して正面から向き合っていることが感じられるエッセイで、小学3年生の演劇発表会でのタンバリン事件に触れた「失敗」などを読むと、飄々とした雰囲気ながらも真面目な著者の人柄が伝わってくる。2017/09/30