内容説明
一九六十年代末、主人公が放校された小学校の場面から始まり、人民解放軍への入隊、作家としての成功、小学校の仲間たちとのその後の交友など、約四十年間の中国社会の大変貌と主人公の人生の変転を軽妙なタッチで描く。ノーベル文学賞作家莫言の自伝的小説。
著者等紹介
莫言[バクゲン]
1955年山東省高密県の「中農」と区分された農家に生まれる。本名・管謨業。2012年、中国作家として初めてノーベル文学賞を受賞
長堀祐造[ナガホリユウゾウ]
1955年埼玉県生まれ。東京大学文学部卒。高校教員を経て、早稲田大学大学院文学研究科博士課程中退。桜美林大学助教授を経て、慶應義塾大学教授。専攻は中国近現代文学。文学博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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新地学@児童書病発動中
95
ノーベル賞作家莫言の入門にぴったりの中編小説。マルケスのようなマジックリアリズム的な要素がないのは少し残念だが、登場人物たちの破天荒な生き方が面白い。特に窮屈な中国社会の仕組みを逆手にとって、成り上がっていく同級生の何志武は存在感があって、憎めない人物で心に残る。どんな社会であってもしたたかに生きていく中国の庶民の描き方は、我が国の井伏鱒二や深沢七郎と共通するものを感じた。2014/07/29
たま
33
莫言の自伝的小説。132頁の短い作品だがソ連製トラックと章技師の逸話はマジックリアリズムの輝きがあるし、動乱の歴史と人生の紆余曲折が絡みあい読み応えがある。ただ中国の制度に疎い私は訳者の解説を参考にしても理解出来ないことも多い。小学校を退学させられた逸話で始まるが、先生に渾名を付けた程度で退学とは。農村の貧しさ、農村戸籍の不利、職住の単位、共産党による恣意的な人事異動、理不尽なことだらけをコネと賄賂で乗り越えていく。ユーモア溢れる調子の設定に才能を感じるが、その背後には理不尽の海に沈む数億の民がいる。2021/10/11
乙郎さん
6
莫言の自伝的小説。非常に短いものの、端的にエピソードを拾い、中国現代史と並走させつつ、トラックをキーアイテムとして構成。ちょっと田中小実昌の『ポロポロ』を連想した。ただ、後年批判されるような思想の端々が見えたのも事実。2024/04/02
Sachi
6
自伝的小説。面白かった。トラックとか、同級生の何志武の不思議でちょっと魅力的で、でも相容れない性格の部分の書き方とか。終わり方も良かった。長編小説を読んでみたい。あとチャンイーモウ監督の映画が無性に見たくなるよ。2015/03/29
ひろゆき
6
自伝風小説。ノーベル賞受賞時に、中国の人権問題などでマスコミから求められて、あたりさわりなくコメントしていたが、その煮え切らないように見えるスタンスが、理解できるような。中国資本主義の発展の原動力となっている人物の典型のような同級生の悪漢風人生に強く共鳴しながら、一定の距離は置く。一方、女の同級生からの賄賂の手助けの要請には、告発することなく黙って金を受けとる。前近代的な中国の有り様をそのまま書けども、外側に自分がいるかのように苛烈に告発することはしない。2013/06/24