出版社内容情報
市場至上主義を掲げ、すべてを市場にゆだねた小泉改革の5年間。勇ましいかけ声と共に始まった道路公団、郵政民営化の不十分さやゆがみは何に起因するのか。格差拡大、地方の疲弊…。むしろ、いま、その弊害が露呈し始めた「改革」を検証し、今後の展望を模索する。
特集のことば
特集【ポスト小泉――日本社会再生への途】
持続可能な福祉社会(広井良典/千葉大学教授)
戦後六〇年の日米関係(森田実/政治評論家)
経済システムの変化と小泉改革(宮崎徹/法政大学兼任講師)
ポスト小泉はインフレ政策で“激痛”政権になる(小林良暢/グローバル総研所長)
「雇用二極化」への対抗軸とは?(龍井葉二/連合本部人権・男女平等局)
若者の社会的排除に逆らって(樋口明彦/法政大学専任講師)
日本を停滞に追いやるドルの罠(山川修/経済アナリスト)
安倍晋三とは何者か(山田勝/本誌編集委員)
「コイズミ現象」にどう向き合うのか(池田知隆/ジャーナリスト)
連合16年とパート・派遣春闘への挑戦(鹿田勝一/ジャーナリスト)
大学問題の現在(後藤邦夫/桃山学院大学名誉教授)
「教育基本法」は本当に必要なのか(池田祥子/本誌編集委員)
生協のこれまでとこれから(杉田次郎/生協職員)
[深層]
フランスの反乱――壊し屋と学生(木下誠/兵庫県立大学教員)
[発信]
NPO法人あったかサポート(笹尾達朗/常務理事)
[想うがままに]
革命家として清田祐一郎を葬送する(小寺山康雄/本誌編集委員)
[現代と思想家]
エーリッヒ・フロムとファシズム(米田祐介/立正大学大学院生)
[この一冊]
『トービン税入門』ブリュノ・ジュタン著(千村和司/オルタモンド運営委員)
『「悪所」の民族誌』沖浦和光著(阿部寛/部落解放同盟厚木支部)
『国立公園成立史の研究』村串仁三郎著(富田武/成蹊大学教授)
[世界の定点観測]
中国人を反日の呪縛から解放するために(有留修/在上海チャイナ・ウォッチャー)
再論――「日本の分岐点に立って」
護憲・改憲論争から東アジア共同体の選択へ(住沢博紀/日本女子大学教授)
オリーブからユニオンヘ――中道左派政権の新たな試練と課題(松田博/立命館大学教員)
「沖縄」の視点から「憲法問題」を考える(高作正博/琉球大学助教授)
韓国の社会運動は“危機”にあるのか?(丸山茂樹/参加型システム研究所客員研究員)
「労使関係ロードマップ」の失敗(キム・ソヨン/「ハンギョレ新聞」社会政策チーム:訳 大畑龍次/朝鮮問題研究者)
[連載]
松田政男が語る戦後思想の10人(第1回)(神山茂夫:聞き手 平沢剛・矢部史郎)
06秋号(VOL.9)予告
編集後記
特集のことば
五年の長きにわたった小泉政権も終末を迎えた。構造改革をお題目とする小泉政治は、政治場裡はいうまでもなく、経済社会や思想空間にも大きな変容をもたらした。ポスト小泉をめぐってその功罪や展望に関する議論がいっそう活発化するだろう。その時、土俵設定を誤ったり、遅れをとらないようにしなければならない。
本特集のプランニング段階では、一つには構造改革の総括もさることながら、もう少し視野を広げて、その基底にある日本社会の構造変化との関係を明確にすること。小泉政治を歴史的文脈や直面している課題のなかに位置づけることで、将来に向けて別の選択肢がありうることを示すことができるのではないか、と考えた。もう一つは、社会を構成する主要なヘゲモニー装置(グラムシ)がどのように変貌したかについて具体的な知見を得たいということであった。取りあげたのは限られた範囲にすぎないが、主体の状況を分析する必要を示したかったからだ。この二つの視点は小泉政治の総括が単なるイデオロギー的断罪に終わることを避け、今後の議論が生産的なものになるのを願ってのことである。
しかし、率直にいって議論はかなり分岐している。首相本人はシンプルかもしれないが、その政権がおかれていた問題状況が複雑であったことの反映でもある。例えば、そのパフォーマンス政治についても、権力サイドからの戦術的操作性だけではなく、テレビのバラエティー化に象徴されるような大衆社会状況のさらなる深化が背景となっている。
とはいえ、共通の出発点は、日本社会が従来のやり方ではうまく回っていかなくなった時に、対抗勢力が脆弱であったために、小泉的改革にイニシアチブを取られたという忸怩たる思いである。小泉政治の問題性自体の批判が大切であることはいうまでもないが、最も有効なのは別の社会モデルとそこへいたる方法を提示し、競い合うことである。それが、この間の歴史過程を主体的、前望的に引き受けるという態度であろう。本特集が日本社会再生への議論の一石となるのを願っている。