出版社内容情報
性に関する従来の枠組みに対し、セクシュアルマイノリティの当事者が、その現実と多様な性のあり方、社会への展望を語った旧版の改訂増補版。レズビアンの項を追加し、ガイドライン第3版や特例法、海外事例など最新情報も網羅し、平易に説明した格好の入門書。
はじめに
序章
第一部 生物の多様な性とインターセックス
第1章 生物の多様な性
1 はじめに
2 メス・オスの定義
3 性決定はメス・オスだけでない
4 性転換をする生物
5 同性間にもある性行動
6 多様な性とともに生きるために
第2章 インターセックスと呼ばれる人々
1 戸籍性別の決定と半陰陽という例外
2 性分化の成り立ち
3 インターセックスとはどんな人々か
4 肉体的な特徴から見て性別のあいまいな人々
5 インターセックスの遺伝子を持つ人々
6 インターセックスは病気か?
第3章 インターセックスの人々をとりまく問題
1 医師たちの苦悩──医療現場がなしてきたこと
2 親たちの苦悩
3 当事者たちの苦悩
4 社会制度の問題点
5 現代医療の進展とともに発生してきた問題
6 これからの社会に望まれること
第二部 心の性と性同一性障害
第1章 心の性
1 セックスとジェンダー
2 心の性(性自認)
3 多様な性のなかでのトランスジェンダー
4 トランスジェンダーも多様
5 性のゆらぎ
コラム タイのトランスジェンダー
第2章 性同一性障害とは何か
1 性同一性障害とは何か
2 GIDの診断と治療
第3章 GIDの人たちをとりまく環境
1 GID当事者のおかれた状況
2 GID当事者が生きやすい社会をつくっていくために
第4章 GIDをめぐる法的諸問題
1 書類上の性別記載をめぐって
2 「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」について
コラム 戸籍の性別変更ができれば問題は解決されるのか
第5章 性別二元制を超えて
1 トランスジェンダーをめぐるさまざまな考え方
2 「らしさ」からはずれることの困難
3 性別二元制を超えて
第三部 同性愛と性的指向
第1章 同性愛と性的指向
1 同性愛と性的指向
2 性的指向とはどのようなものか
3 同性愛者は人口の何%存在するのか?
4 ゲイとレズビアン
5 レズビアンとは何か
第2章 同性愛をめぐる様々な視点
1 同性愛は病気か?
2 同性愛の原因
3 同性愛は罪でしょうか?
コラム オスカー・ワイルド
第3章 同性愛嫌悪と差別
1 同性愛嫌悪とは
2 内面化された同性愛嫌悪
3 同性愛者はどこにいる?
4 性的指向はプライバシーか?
5 相談コーナー
6 カミングアウト体験記
7 差別はどのようにして顕在化するのか
コラム 「オカマ」は差別か
オカマの語源
第4章 同性愛者の未来
1 “パレード”“ドラァグ”“レインボー・フラッグ”
コラム 実行委員長おかべよしひろが語るパレード
2 同性愛者が求める法的権利
3 多様なライフスタイルをめざして
第5章 HIV感染症の予防
1 エイズをとりまく現在
2 減らない新規患者・感染者
3 どうすれば感染しないのか
4 患者・感染者が暮らしやすい社会を
5 自分の健康を守る
コラム 長谷川博史さんにきく――エイズと共に暮らす社会
おわりに 多様な性が認められる社会
基本用語集
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
執筆者が薦める図書のリスト
セクシュアルマイノリティ教職員ネットワークのメンバーが執筆した本
セクシュアルマイノリティ団体の紹介
セクシュアルマイノリティ教職員ネットワークについて
はじめに
『セクシュアルマイノリティ』は性教育、人権教育の一環としてのセクシュアルマイノリティ教育にふさわしいテキストとして編集されました。インターセックス、トランスジェンダー、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルなどのセクシュアルマイノリティ(性的少数者)と呼ばれる人たちが抱えているさまざまな問題を網羅的に解説したテキストはこれまでありませんでした。教育関係者のみなさんには、ぜひこのテキストを使ってセクシュアルマイノリティ教育をすすめていっていただきたいと思います。
これまで性的少数者が抱える問題が人権問題として認識されることはありませんでした。しかし、ごく最近になって人権問題としての理解がようやくひろまりつつあります。性的少数者が悩む社会的な差別や偏見を取り除き、その意識を変革していくねばりづよい努力はまず教育を通じてなされねばならないと思います。その努力の一助に本書がなれば幸いです。
本書の最大の特徴は、執筆者全員がセクシュアルマイノリティの当事者であるという点です。時として、書き手の実体験が顔を出すこともあります。高校生から一般の初学者にわかりやすいようなるだけ平易で明快に記述するよう心がけました。
人間の性が多様であるように、性をめぐる問題もさまざまに異なった見解や立場があり、時としてそれは激しい論争を巻き起こすこともあります。執筆者たちはセクシュアルマイノリティの代表者のような顔をして語るつもりはありません。できる限りいろんな見解を盛り込もうと努力しました。しかしそれは執筆者各人に何の立場や主張もないことを意味するものではありません。また本書の記述はセクシュアルマイノリティ教職員ネットワークの団体としての統一した見解ではありません。同じ問題であっても立場が異なればその視点は自ずと異なることもあり、あえて執筆者同士で考え方をすりあわせて一つの見解にまとめるということをしていません。ですから、内容や文章上の最終的な責任は各原稿の執筆者にあります。
わたしたち執筆者一同は、次の世代を担う若い人たちが本書を手にとることで、セクシュアルマイノリティがどのような人たちであるかをよく理解してほしいと思います。そうすることで、差別や偏見のない、多様な性を認め合うことのできる社会が築かれることを期待しています。
第2版のために
本書は2003年の出版以来好評をもって迎えられ、このたび、改訂第2版を出す運びとなりました。読者の皆様には心より感謝いたします。第2版への変更点は、第2部で「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の成立と施行に対応して法律関係の記述を刷新したことと、「治療と診断のガイドライン」第3版に応じて記述を改めたことです。また第3部では、当会のロニー・アレキサンダーを新たにレズビアンの執筆者として迎え、レズビアンに関する記述を加えたことなどです。それでも同性愛の章は大部分が主に男性執筆者によって書かれており、アレキサンダーの指摘を待つまでもなく完全に男/女対等の視点で記述されているとはいえず、これは今後に課題を残したといえます。また長谷川博史さんにエイズ啓発の話を聞いたり、他にもいくつかコラムを加えて、おもしろい読み物としていっそうのパワーアップをはかりました。今後ともセクシュアルマイノリティ研修・教育の手引きとしてご活用ください。
セクシュアルマイノリティ教職員
ネットワーク(STN21)代表
高取 昌二
目次
第1部 生物の多様な性とインターセックス(生物の多様な性;インターセックスと呼ばれる人々;インターセックスの人々をとりまく問題)
第2部 心の性と性同一性障害(心の性;性同一性障害とは何か;GIDの人たちをとりまく環境 ほか)
第3部 同性愛と性的指向(同性愛と性的指向;同性愛をめぐる様々な視点;同性愛嫌悪と差別 ほか)
おわりに 多様な性が認められる社会