出版社内容情報
「教育の危機」が問われている。その原因が複合的で社会や文化総体に関わって出現していることに注目し、人間形成と文化の相関関係において教育を捉え直す「教育文化学」の構築を目指した気鋭の書。
序 章
第1部 文化交流と教育
第1章 文化交流と教育――人と文化の交わり
第2章 日本の近代教育と西洋教育思想
第3章 日本人移民の文化変容と教育――アメリカ日本人移民の集団間関係と教育ストラテジーの史的展開
第4章 バイリンガルの言語習得と生活文化
第5章 シルクロードへのノスタルジア――教育への応用
第2部 生涯学習の中の文化交流
第1章 学校教育における異文化理解教育
第2章 社会教育における文化交流――地域における子どもの体験と交流
第3章 大学における異文化間教育――多文化主義の挑戦に応えるカリキュラム構築にむけて
第4章 図書館の国際文化交流
第5章 図書館における多文化サービス
第6章 スポーツのグローバリゼーション
序章
教育というものを人間の誕生から臨終にいたるまでの、まさしく生の営みと捉えるならば、それらを構成している諸々の要因は教育学研究の対象となる。私たちはこうした人間の生の営みの集積を文化と呼んでいる。それは言語であったり、子育ての方法や成人の観念、親子の関係やさらには何をどのように食べるのかという生命を繋ぐ食事であったり、挨拶や身ぶり手ぶり等の身体動作であったりする。また、共同生活における他者理解の方法やその社会が持つさまざまな制度や法律それに知識の伝達の手段もそうした文化を特徴づけるものであろう。私たちが教育の歪みを問題とするとき、往々にして「学校」という限られた空間の制度と内容に関する議論に偏りがちである。そこで語られる「教育問題」はかつては社会問題として取り上げられることが多かったが、近年は子どもの心の問題に還元される傾向が強い。そこから何らかの対症療法が導き出される。「心のケア」や「心の教育」という言葉で語られるこれらの対症療法が一定の有効性を持っていることは否定できない。しかし、現在問われている「教育の危機」はもっと根深くかつ深刻である。その原因も複合的で社会や文化総体に関わって出現していること関係の中で強制される場合も多い。今日のようにボーダレス社会における人間形成と教育の課題を考える際に、文化交流の視点はきわめて重要な意味を持っている。異質な文化を持った人々と共生し相互に理解しあうことが求められている今日の国際社会において、私たちが文化交流にこだわる点はここにある。
本書は2部構成からなっている。第1部の「文化交流と教育」では主として、文化交流の実態とそこから生じてくる諸課題に焦点を当てながら、教育文化学の思想と理論の構築を目指した論考を中心に構成した。第1章においては日本固有と考えられてきた伝統的な教育文化が実は東アジアとの文化交流の中で形成され、そこから日本人の人間形成に関する理想が生み出されてきたことを明らかにしている。第2章では日本の近代教育の形成期において受容された欧米の教育学理論や制度が単なる模倣に終始したのではなく、主体的な受容と批判的な検証を経て確立されてきたことを論証している。第3章はアメリカに渡った日本人移民が、ホスト社会をはじめ、多様な移民集団とどのような関係性を構築し、それは移民集団そのものに、いかなる変容をもたらしたかを明らかにしている。民族や国民が越境して交わるグ携交流や日常的に体験する地域間や世代間の文化交流の「場」とその実際について論じている。第3章では多文化主義が大学教育にもたらした歴史的課題といったものを検証しながら、大学における異文化間教育の課題を論じている。とくにジェンダー学を多文化主義教育の文脈で捉えなおしたカリキュラム構成の実際を提示している。第4章では、公共図書館の新しい課題として、国際的な情報の流通とその共有化を支える「国際交流の場」としての機能と「文化の使徒」としての図書館専門職の国際交流及び国際貢献の実際を提示している。第5章では多文化・多民族共生社会における図書館の役割について考察している。国民の知る権利や学習権などの諸権利を保障するとともに、マイノリティとマジョリティの住民相互理解を促進させる図書館の機能に言及している。第6章は人間の身体的機能がもつ普遍性を前提としたスポーツ指導またはスポーツ教育のグローバリゼーションは多様な言語を媒介として伝達する際に、言語の背景にある文化風土が大きく作用することを明らかにしたうえで、そうした障壁を克服する方向を提示している。
本書は教育文化学という明確な共通の概念のもとに執筆したわけではないので、一
目次
第1部 文化交流と教育(文化交流と教育―人と文化の交わり;日本の近代教育と西洋教育思想;日本人移民の文化変容と教育―アメリカ日本人移民の集団間関係と教育ストラテジーの史的展開;バイリンガルの言語習得と生活文化 ほか)
第2部 生涯学習の中の文化交流(学校教育における異文化理解教育;社会教育における文化交流―地域における子どもの体験と交流;大学における異文化間教育―多文化主義の挑戦に応えるカリキュラム構築にむけて;図書館の国際文化交流 ほか)