出版社内容情報
向井伸二という一人の死刑囚の生と死を、伸二を直接・間接に知る人びとの寄稿、助命嘆願書、座談会を通じて見つめることで、国家による殺人としての死刑を否定し、真の問題解決のためには生きて償うことこそがいかに大切であるかを訴える。
はじめに
第一部 死刑囚、向井伸二に寄せて
向井伸二の生と死(武田 和夫)
誰の罪か――刑死した伸二と共に生きて(向井 武子)
伸二、死刑とかく闘えり(向井 [りっしんべん+喜]夫)
向井伸二くんのこと(大場 知子)
ある手紙(山口喜美子)
それは誰ですか?(坂口 誠也)
一粒の種、地に落ちて(佐藤ゆう子)
ある、死刑判決刑事事件を弁護して(大搗 幸男)
高度成長社会の棄民の叫び(大河原礼三)
向井伸二君について――精神科医として考えること(平山 正実)
世界の死刑廃止潮流と連帯する――向井武子さんが第二回死刑廃止世界会議に参加した意義(柳下 み咲)
第二部 向井伸二のために寄せられた助命嘆願書
人間性のよみがえりに目を(松下 竜一)
生まれ変わろうとする努力を断たないで(菊池さよ子)
人を殺さない社会を(加瀬 寿子)
憎しみと報復の連鎖を断つことこそ(水田 ふう)
脳の機能障害が精査されていない(国分 葉子)
命を奪う刑はもういらない(ヨシコ・リー)
死刑は感情的な報復でしかない(酒井 緑)
国家が命を絶ってはならない(山際 永
はじめに
カタンと音がして面会室の扉が開くと、伸二は少し緊張した面持ちで入ってきました。静かに椅子に座った伸二は「母さん元気?」と聞いて、次に「父さんも元気ですか?」とたずねるのでした。先に面会室に入り待っていたわたしは笑顔で伸二を迎えました。面会のたびに繰り返された光景が今も脳裏によみがえります。
一九八六年盛夏、神戸拘置所の面会室で初めて会った日のことを想い起こします。伸二は大きく見開いた瞳をわたしに向けました。でもその瞳は帳(とばり)が下りたようにすべての感情を内側に閉じ込めていました。二四年間の人生の苦しみ悲しみを閉じ込めてしまったような瞳から、わたしは彼の心のうちを何も読み取ることができませんでした。
しかし、その瞳が感情を持ち始めたときから、わたしたちは嵐のような歳月を生きてきたのです。そして一七年後、最後の面会を迎えます。誰もその面会が最後になるとは予測できなかったのですが、――伸二さえも。
別れのとき伸二は、満面に笑みをたたえていました。瞳にはわたしたちへの愛情さえ感じられる輝きが溢れていました。「さようなら」伸二は両手を高く挙げました。わたしたちも手を振り「また会いましょう」
内容説明
ここに伸二を愛した人々の手によって、その生と死を記録します。地上に生を享け、人生の大半を独房で生き、自己の罪と闘いぬいた、ひとりの人間の魂の記録です。
目次
第1部 死刑囚、向井伸二に奇せて(向井伸二の生と死;誰の罪か―刑死した伸二と共に生きて;伸二、死刑とかく闘えり;向井伸二くんのこと;ある手紙 ほか)
第2部 向井伸二のために寄せられた助命嘆願書(人間性のよみがえりに目を;生まれ変わろうとする努力を断たないで;人を殺さない社会を;憎しみと報復の連鎖を断つことこそ;脳の機能障害が精査されていない ほか)
第3部 座談会「死刑を超えるもの」
付録
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- 和書
- 原価計算総論演習