内容説明
先の見えない避難生活、津波被災地の復興の遅れ、地域間・住民間の微妙なこころの行きちがい。原発事故被災地の人々は、どのように障害を乗り越えようとしているのか。それを可能にする仕組みを、既存の制度や観念にとらわれず考える。
目次
第1章 原発災害からの福島復興と日本社会(放射能汚染水の海洋流出と東電・国の対応;原発事故子ども・被災者支援法の放置 ほか)
第2章 復興の現状と復興政策の問題点(福島の再生なくして日本の再生なし;復興政策をめぐる対立 ほか)
第3章 福島原発立地の歴史(原発立地周辺地域への視点;原発立地以前の「福島のチベット」双葉郡 ほか)
第4章 福島復興へのみち―いわきおてんとSUNプロジェクト発日本社会へ(古着リサイクルからオーガニックコットン栽培・企業組合の設立へ;原発から自然エネルギーへ―企業組合の挑戦 ほか)
第5章 福島復興と日本社会の再生―新しい社会システムの形成・座談会(東京オリンピック開催と福島復興;エネルギー産業の栄枯盛衰に翻弄されてきた浜通り地域 ほか)
著者等紹介
松岡俊二[マツオカシュンジ]
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
274
類書の中では珍しく前向きなタイトル。福島第一原発の放射能汚染水流出問題に始まり、法整備と復興庁の検証、さらには復興政策の問題点へと考察を深めていく。他のルポルタージュと違うのは、学術論文がしばしば引用され、その方面から客観性と説得力とを持たせている点。しかし、何よりも大きな違いはそこから。「帰還にこだわることは間違っている。除染にこだわることも間違っている」と断言しながらも現実的に復興を模索し、実践的な試みを積み重ねていく点だ。ここで紹介される「いわきおてんとSUNプロジェクト」の今後に大いに注目したい。2016/04/04
syota
26
法律の条文や国会での政府説明、県の復興計画などを踏まえながら、なおかつ行政とは一線を画し、説得力ある内容になっている。一般の読者だけでなく、福島の復興に関わっている行政マンの方々にも、ぜひ読んでいただきたい一冊だ。後半は、風評被害に悩む地元にあって、なんとか光明を見出そうと奔走する人たちの記録。特に、買い手の付かない農産物の代わりにオーガニックコットンの栽培を広めようと、不屈の闘志で奮闘する吉田さんには、ただただ頭が下がる思いだ。この本の存在を教えてくれた読友に感謝。2016/05/01