内容説明
傷跡―いまだ終わらない、完結しない過去、癒しがたく忘却することのできない経験が現在に息づく、現在進行形の語りによってしか語ることの出来ない、過去の時間と現在の時間が交錯する場所。戦争経験の傷跡を生き続けたアジアと日本の戦後社会を考察した24本の論考を収録。
目次
序論 身体としての戦後日本そしてその傷跡
第1部 戦争の傷跡とアジアの中の戦後(傷痍軍人の語る「傷跡」―直井潔の作品とケアの様相をめぐって;生者を傷つける死者との回路―川端康成『虹いくたび』 ほか)
第2部 傷の記憶と表象(脚本家水木洋子と戦後社会派映画再考;母の死とオリンピック―古田幸『おかあさんのばか』のメディア展開をめぐって ほか)
第3部 戦後民主主義―運動と傷跡(中野重治「雨の降る品川駅」の同時代史;“カスバ”とよばれた街―一九六〇年代の雑誌メディアにおける“釜ケ崎”の表象 ほか)
第4部 ジェンダー、生政治と傷跡(傷を重ねる―森崎和江の聞き書きにみる語り/沈黙/無言;森崎和江『からゆきさん』―傷跡のインターセクショナリティ ほか)
著者等紹介
坪井秀人[ツボイヒデト]
国際日本文化研究センター教授、総合研究大学院大学教授(日本近代文学・文化史)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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uehara
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宇野田~坪井氏あたりの日文研での研究会報告集(関連するものとしては『対抗文化史ー冷戦期日本の表現と運動』を読んでいた)。日本の戦後を時間的(1点のみに固定化するのでなく)・空間的(一国主義でなく)に開いていくもの。頁数で短いものたくさんあり読みやすい。自分の関心では最近歴史記述について考えるところあり、松谷みよ子による戦争記憶を民話する方法について扱ったもの、森崎和江の聞き書きに注目したものがとくに学ぶことあり。また、遠藤周作『イエスの生涯』を同時代の文脈で捉え返したものもなるほどと。2024/05/06