感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
syota
20
「荒野の狼」は里村和秋氏の訳で2006年刊行。やや生真面目な訳文だが読みやすい。ただ内容は極めて観念的。主人公ハリー・ハラー=H.H=ヘルマン・ヘッセ、という指摘のとおり、描かれているのは正に作者の自画像なのだろう。よき社会人としての理性と、現実社会への痛烈な反感との板挟みになり、社会からドロップアウトしたハリー。前半はあまりの理屈っぽさに閉口したが、後半に入って一転。幻覚の中で、もっと柔軟に生き、笑い飛ばすことを覚えるよう、モーツァルト(!)に諭されるラストは、特に印象的だ[ガーディアン必読1000冊]2015/09/10
tyfk
9
『車輪の下』『デーミアン』くらいしか読んでなかったのでこの『荒野の狼』は、ヘルミーネの登場から仮面舞踏会への展開が意外に現代的な印象で、ヘッセのイメージがかなり変わった。ルドルフ・シュタイナー研究の高橋巌が『デミアン』をよく引き合いに出されていたけど、こちらの方が時代背景こみで神秘学に通じる側面を感じた。2025/03/15
訪問者
6
この巻の『荒野の狼』は本当に奇妙な作品で、特に後半の驚くべき展開と奇想には吃驚させられる。ヘッセ作品中、最大の問題作だろう。もっとも『デーミアン』も『シッダールタ』も、この時期の長編はどれも立派な問題作ではあるのだが。2025/04/04
訪問者
5
「荒野の狼」は初読だったが、これは傑作。クラシック好きの主人公とジャズ演奏家との対話は、ヘッセのジャズに対する深い理解を表している。また、後半のとんでもない展開と奇想は、これまでのヘッセ作品にはないもので、ヘッセの小説の中でも一番独自な作品だろう。2019/01/24
nightowl
1
ヘルマン・ヘッセが精神的危機を著作で乗り越えようとしているのが如実な一冊。「荒野の狼」は自身の救われない現状と"こういう人物がいたら救われるのに"と救済願望がぐちゃぐちゃになって終盤はまるで幻想文学化している。当時の読者は読んでいる途中、救済されると思ったのにまるきり個人的な過去への思いに収束してしまうので困惑したに違いない。そこはヱヴァンゲリオン風。「東方への旅」は訳注を見ると分かる人には分かる元ネタ探しに近い。書くアイデンティティをどこに求めるか迷っている様子。ヘッセはフリーメイソン会員と知り納得。2025/09/28