出版社内容情報
中世のたたずまいと数々の名画で知られる、イタリアの古都シエナを焦点をあて、美術作品と社会の関係を解説。
内容説明
「中世都市の女王」ともいうべきシエナは、中世においてはあるゆる意味で典型的な都市国家であった。しかも、いわゆる「シエナ派絵画」を頂点とする、すぐれた造形美術文化を発達させた。くわえて、16世紀以降衰微したために、それら中世の遺産がほとんど無傷のまま伝えられているからである。本書は、まず13世紀末から14世紀前半のシエナの都市国家体制とその市民たちの姿を生き生きと語り、つづいてシエナの市民たちがいかにして都市を整備し、大聖堂や市庁舎を建設したかを詳説する。そして最後に、ドゥッチョ、シモーネ・マルティーニ、アンブロジオ・ロレンツェッティというシエナの生んだ3人の偉大な画家とその作品を、社会との関連において考察する。
目次
第1部 都市国家(モンタペルティの戦い;「ノーヴェ」体制;市民たち)
第2部 都市建設(城壁・道路・フォンテ;大聖堂;市庁舎とカンポ広場)
第3部 美術作品(マエスタ〈荘厳の聖母〉;正義を愛せ;ブオン・ゴヴェルノ〈善き政府〉)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ひろ
3
美術はその社会的役割と切り離して理解はできないという真理を説き、シエナの場合 美術そのもの、都市や城壁そのもの、そして政治体制を含めた都市国家という3つの作品の研究を通じて時代背景を解き明かした良著。 中世の美術作品はその大半が都市貴族の罪の意識の産物であり、商売に励みながら同時に贖罪を求める心が教会の装飾への寄進を促したという説はとても鋭い指摘。 またイタリア的文化は、統一イタリア建国前の中世都市国家時代に育まれたことも現代に繋がるカンパニリズモを考えると納得。2020/04/02
午後
1
シエナを代表する画家ドゥッチオ、マルティーニ、ロランツェッティを中心に、複雑な都市国家成立の歴史や、民衆の生活に根ざした美術がどのような政治的・文化的・宗教的な文脈で生み出されていったのかを丁寧に解説した本。著者が感嘆しているように、完成したドゥッチオのマエスタを聖堂まで運搬する光景の描写は感動的。高度な精神性と、信仰心、そして政治的な意図、優れた造形表現が奇跡的に結びついている繊細なシエナ派絵画の美しさ。そして都市自体もまた、中世イタリアの誇る一つの作品でいるとも言える。参考文献も充実している。2021/02/05