出版社内容情報
ローマ大火とともに世界史上最大級の惨事といわれる明暦の大火。その後の「都市改造」が新たな江戸を創り上げたとされるが、果たしてその通説は正しいのか。裏付けのないエピソードを避け、信頼性の高い記録から災害時の天候や焼失範囲などの事実関係を確認。江戸図類の記載情報をデータ化して空間的な変遷も読み解き、大火と復興の実像に迫る。
内容説明
世界史上最大級の惨事といわれる明暦の大火。その後の「都市改造」が新たな江戸を創り上げたというのは正しいのか。信頼できる記録から事実関係を確認。江戸図の情報から都市の変遷を読み解き、大火と復興の実像に迫る。
目次
「都市改造」という神話―プロローグ
大火の日
「復興」の実態
大火以前・以後
神話化する大火
大火がもたらしたもの―エピローグ
著者等紹介
岩本馨[イワモトカオル]
1978年、北九州市に生まれる。2000年、東京大学工学部建築学科卒業。2006年、同大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)。現在、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
92
振袖火事として有名な明暦の大火による被害状況や江戸復興の実態、また今日まで続く火事絡みの都市伝説がいかにして生まれたかを探る。当時の地図や文書を調べ上げ、中心部に集中していた大名屋敷が広い敷地を求めて郊外へ分散していく様子を跡付ける。大火をきっかけに江戸の都市改造が進んだとされる話も、寺町の形成などは火災以前から進められた政策で、幕府の指導下で再建が進んだとするご機嫌取り本が正史に採用された事実を指摘する。お膝元の都市計画さえ思う通りにできない幕府は、時代小説にあるほど強権的ではなかった実相が見えてくる。2021/10/21
ようはん
27
結論を言えば明暦の大火後に武家屋敷の郊外移転や火除地の設置等による江戸の再開発が進んだという通説は浅井了意の「むさしあぶみ」という本による影響が強く、実際には大火前に計画は進んでいたという事。ただ火除地はあまり防火には意味が無かったようで火災の燃え広がりを遅らせる程度の物であった。2022/09/02
bapaksejahtera
16
21世紀になり、明暦以前の江戸町大絵図が大分県で発見される。本書は、それら江戸図の変遷を丹念に追いつつ、明暦大火前後の江戸の変化を記す。大火を機に建築が桃山様式から江戸様式への劃期を呈したとか、幕府による都市改造が進められた等の定説の誤りを正す。但し本書を読む限り、著者は史観の誤りを大上段に言挙げすると言うより、都市化の進む当時の江戸の様相、火事の頻発とそれへの行政的対処等を地道に見直そうとする。関連史料の紹介も興味深い。幕府が諸大名や寺社、町民に強権的に対処しなかった説明も解り易い。本シリーズらしい良書2022/05/02
翠埜もぐら
16
「熊本城超絶再現記」でも感じたことですが、歴史上の事象を再現検証する際の資料の読み込み量の多さと緻密さに驚きました。「当時」の資料と言えども「伝聞」や想像妄想が入り込んでいるのはある意味必然で、それらを排除したり部分的に使ったりしてできるだけ「素」の状態を構築していきます。戦乱が収束し徳川の首府となった江戸に大勢の人が集まり続けどんどん手狭になっていくわけで、大火がなくても都市は肥大し変貌していきます。と言うことで火事による人的被害や町人町の復興や経済的な話はほぼなくそのへんがちょっと物足りなかったかな。2021/11/11
Pyonkichi
5
明暦の大火前後で江戸がどのように変化したかを丹念に検証し、大化を契機に幕府が大規模な都市改造を行ったという通説を否定。大名屋敷の移転などはむしろ大名側が以前から望んでいたことで、幕府はそうした希望を適宜調整しただけ、というのが実態らしい。都市改造は「むさしあぶみ」のような物語を通して広まった神話であり、近代以降も関東大震災や東京五輪などの機会にたびたび取り上げられて定着したことも明らかにしている。実証部分の叙述はやや単調だが、それが本書の良さでもあると思う。2023/02/08