内容説明
遺伝子とかクローン動物とか先端医療とかに関する記事が毎日の新聞をにぎわせている。動物実験でまだとても実用の段階に至らないものでも、人々はそれに夢をつなごうとしている。遺伝子(DNA)が人々の生活や価値観を変え、生きることの意味までが、それに支配される社会(遺伝子至上社会)がやってきているのではないか。出生前診断は、先天異常を発症しうる「欠陥のある」胎児を避け、発症しない「欠陥のない」胎児だけを選択しようとする技術である。この技術の普及の背景に、遺伝子至上社会があることをはたして否定できるだろうか。本書は、そのような「いのちの選択」に、産科医療の最先端から警鐘を鳴らすものである。
目次
1 出生前診断の進歩
2 何が問題か
3 自己決定の条件とその限界
4 優生保護法から母体保護法へ
5 出生前診断と“新優生学”
6 障害をもって生きる
7 21世紀の出生診断に求められるもの
付章 出生前診断―座談会
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マイケル
5
産婦人科医が出生前診断という「いのちの選択」の国際的なマス・スクリーニング化の流れに警鐘を鳴らす。内容のぎっしり詰まった良書。自己決定という名のもとに新優生学を進めてはいけない。障害者やその家族は必ず不幸だと決めつけるのはおかしいと指摘。「今日の風、なに色?(辻井いつ子著)」を思い出す。目が見えなかったことで聴覚が驚異的に研ぎ澄まされた結果、ピアニストになれた。逆に親の期待で「クスノキの番人(東野圭吾)」のように不幸(ネタバレ?)になることも。検査は妊婦に不安を企業に利益をもたらす。パーソン論批判に同感。2020/08/22