内容説明
明治から大正、そして太平洋戦争前後にかけて、仏教の経典を求めて、あるいは僧院での修学に、そして国の密命を帯びて、鎖国状態のチベットに密に潜入した十人の日本人がいた。彼らの行動を、新発見の資料と現地を含めた取材で探った異色のドキュメンタリー。当時のチベットの特異性と歴史に翻弄された日本人の稀有な体験が、詳細に綴られる。上下巻の親本二冊が、一冊の文庫に再編集された。
目次
序章 ウランバートルの邂逅
第1章 帰ってこなかった学僧
第2章 『チベット旅行記』の衝撃
第3章 世界一周無銭旅行家
第4章 大正の玉手箱事件
第5章 ダライ・ラマ十三世の寵愛
第6章 農業チベットの目撃者
第7章 興亜義塾の青春
終章 地を這う人
著者等紹介
江本嘉伸[エモトヨシノブ]
1940年横浜市生まれ。東京外国語大学卒業。ジャーナリスト。南北両側からのエベレスト(チョモランマ)登山取材、北極、中央アジア、チベット横断、黄河源流探検など、辺境・極地の取材多数。地平線会議代表世話人、東京外国語大学山岳会会員、日本山岳会会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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BLACK無糖好き
15
明治から大正、昭和にかけてチベットに潜入した日本人10人(河口慧海、能海寛、寺本婉雅、成田安輝、矢島保治郎、青木文教、多田等観、野元甚蔵、木村肥佐生、西川一三)。仏教者、冒険旅行者、情報員、夫々の立場での活動の記録を、当時の国際情勢とも絡めながら辿る。宗教の探求や政治的な思惑もあるが、本書の基調テーマは"旅と人間"。現代人にはとてもマネできないようなタフな行程を踏破し、チベットでの文化の奥深さを体験する。◆旅は人生に彩りを与えてくれるんだよなぁ。ここ数年すっかり旅に出なくなってしまった^^; 2017/04/28
pitch
6
明治から第二次大戦期までの期間、当時秘境であったチベットに、様々な理由から入った十人の日本人の話。読み終わってみると、チベットについて知らなかったことも多かったし、何より面白く読めたと思うのだけど、読んでる途中は何だかスッキリしなかった。おそらく著者の思い入れが強すぎて、総論なんだか各論なんだか判然としない構成になってるためか。むしろここに出てきた各人の体験記を読みたくなった。2019/08/17
rinrinkimkim
3
字が多くててこずりました!鎖国チベットへアタックした猛者たちの伝記。能海さんの「つばさなければわたりえもせず」と詠んだ金沙江をさらりとわたる河口さんとかタイミングなんだろうなあ。その河口さんは「雪をくらひつユキになやめる」と雪に苦しんだが西川さんはその雪山を苦しみながら踏破。誰もが強い磁場をもつチベットに憧れ打ち砕かれそれでも足を踏み入れたクソ根性と強運の持ち主たちの物語でした。とにかく長いので面白かったが再読は無理です。涙。もっと若い頃だったらもう一度読み返したかも。2024/12/07
Hisatomi Maria Gratia Yuki
2
強くチベットに行きたいと願った人よりも、最初はたいして興味もなかった人の方が、なぜか長くチベットに滞在することになったのが不思議。そして、同時期にチベットに滞在していた人同士が、なぜか物別れするというのも……。アカデミックな事情がからんで、というのもあるだろうけど、そこがなんとももどかしい。そして立派な先生だと思っていても、やっぱり人間ってそんなに変わらないものなのね、とも思う。2017/06/11
梅子
1
かつて命懸けでラサを目指した日本人10人の記録、とはいっても一人一人の出発から帰国までを地道に記すのではなく(それは本人達が自分の著作等で既に記している)、それぞれの旅を連関させ、作者なりに時代背景や彼らの共通点を推測しながら、1つの時代を扱った歴史書のような書き方をしている。その試みは重要だが、まずは本人達が記した記録書を楽しんでから読むのが正解かもしれない。2017/07/20